精密金属材料メーカー・特殊金属エクセルは創業以来、常に日本の先端産業が必要とする素材を提供してきた。同社はいま実に5万を超えるスペックを有し、更には製品を極少ロット対応で納期通りに提供する体制に向け全社取り組み中である。危機を乗り越え、奇跡的なシステムを実現した同社のイノベーションプロセスを谷口取締役に伺った。
第二回
「工場に、見学者を、絶対に入れるな」
■在庫の山、汚れ放題のライン、真っ暗な作業環境
「それは悲惨な状況でした。ラインのこんな惨状を顧客に見られたら、二度と発注してもらえなくなる。だから絶対に顧客を工場に連れてくるなと社長からの厳命が出ました」
2000年当時、売上が急落した直接の理由は外部要因にある。半導体不況であり、ITバブルの崩壊だ。とはいえこれを機に長年に渡って積もり積もった内部要因が吹き出した面も否めない。モノ作りの現場、工場があれていたのだ。いまでこそ工場内は見事なまでにクリーンである。必要なモノがあるべき位置に必要なだけ置かれ、とてもすっきりしている。
「これが6年ぐらい前には本当にぐちゃぐちゃで目も当てられない状態でした。2002年の福井事業所の閉鎖に伴い、生産アイテムが埼玉事業所に移管され、工場の混乱に拍車がかかっていました。幸いベテラン職人がたくさんいたから、彼らの腕に支えられて技術力は確かだった。とはいえ材料の山がいたるところに積まれ、自分が作業するスペースが汚れていようが誰もあまり気にしてなかった」
当時は24時間二交代制が取られ、12時間ごとでシフトが組まれていた。たとえ仕事をするラインが同じでもシフトが違えば、話をする機会はもちろん、ろくに顔を合わすこともない。コミュニケーションがなければ、相手のことを思いやる気持ちも生まれないだろう。思いやりがなければ、次に同じラインを使う人のためにキレイにしておく習慣など生まれるべくもない。勢いラインは汚れる一方だった。
当時の埼玉事業所は納期に対する意識も極めて低かった。顧客が求める納期通りに納品されるケースの方が少ないぐらいである。工場内だけでなく営業と工場のコミュニケーションもひどく劣化していたのだ。
「工場を信用できない営業は、本来の納期を前倒しして工場に伝える。しかも数量もリスクを見込んで多い目に指示を出す。工場は工場で営業が納期にサバを読んでいることを見透かしているから、はなから納期を守る意識が弱い」
これでは正確な納期管理など求めるべくもない。やがて工場には過重発注された製品や、混乱の中生じた不良品の山がどんどん積み上がっていった。そうした在庫の山はさらに作業環境を悪化させ、やがては足の踏み場にも困るような状態となる。まさに悪循環である。
「こうした状況に対するトップの危機感が臨界値を超えたのでしょう。2003年、私に対して社長から直々に指令が下りました。徹底した生産革新運動に取り組むようにと。モノ作りは現場から、荒みかけている現場を何としてでも建て直さなければならない。社長の危機意識を私もひしひしと感じました」
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FMO第7弾【株式会社特殊金属エクセル】
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