高齢期の幸福は、「ゴリラ」に学べ。

2025.01.20

ライフ・ソーシャル

高齢期の幸福は、「ゴリラ」に学べ。

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

サル化する人間社会と、高齢期の幸福について。

権利や受益者としての立場ばかり主張する。そして、上に立っている(と思い込んでいる)自分の立場を脅かすものに対しては、サルのようにすぐに興奮し、怒りを露わにする。「サル・シニア」といえるかもしれません。

現役時代、会社で偉いポジションに就いていた頃なら、そんなサル的な姿勢も、その実績や権限がゆえに周囲が認め、忖度(そんたく)し、容認もされたでしょうが、引退後に環境が変わってしまえば、単に嫌がられ、遠ざけられる要素にしかなりません。そうして孤立を深める結果となるでしょう。

一方、楽しそうに暮らしておられる高齢者を見ると、これとは正反対。同世代にも若者にも、年齢やその他の属性などは気にせず、上下や優劣といった意識もなく、誰に対しても同じように丁寧に、でも愛嬌やユーモアを持って接しています。立派なキャリアや業績、趣味や活動などについても自分からは話されないので、聞いて初めて驚いたり、感心したりすることも少なくありません。

マウントを取るどころか、むしろ控えめ。いつも平常心で穏やかで、ご機嫌にしていらっしゃる。「サル・シニア」と対照させ、敬意を込めて「ゴリラ・シニア」と呼びたいと思います。


●ゴリラに学ぶ「質のよいコミュニティーづくり」
人間は社会的動物で、そもそも「サル社会」には向いていません。年を取ると余計にそうで、日常のちょっとしたことを含めて、いろいろな手助けを得たり、互いに助け合ったりという必要が生じてくるからです。「サル・シニア」はそこをあまり分かっていません。だから、高齢期に幸福になりやすいのは「ゴリラ・シニア」なのですが、それでも「サル化」していく世の中では、幸せに生きることが難しくなっているのかもしれません。

高齢期の健康維持や幸福感の向上について、医療・看護・介護などの分野を含む多くの研究者がコミュニティーの重要性を指摘するようになってきました。ただし、単に集まればいいということではありません。共助や互助が実現するための、相互理解や互いへの敬意、豊かな関係性や交流があることがポイントとなります。そして、そんな質のよいコミュニティーづくりは、ゴリラに学べということです。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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