/アリストテレースの研究は、論理学から生物学、倫理学や政治学、演劇論まで多岐に渡っていますが、この《自然の階段》という形而上学において、すべての分野は一つの体系としてまとめられています。そこでは、彼が言うように、ムダなもの、ムダな研究はひとつもありません。/
天空の星々が地上の人間や自然に連鎖的に影響を与えている、という発想は、《占星術》を理論的に裏付けるものです。
かくして、世界は、神々から人間、石ころまで、すべてが因果連鎖でつながり、たがいに影響を与えている、とされます。それゆえ、アリストテレースは、「自然は真空を嫌う」として、この宇宙的な因果連鎖に空白が無いことを論じ、また、「自然はなにものもむだに作らない」、どんなに小さな物事も世界中では合理的で必然的である、と考えました。
この《自然の階段》の中にあって、人間もまた天空などの上位の作動因の影響を受けますが、その内部に独自の作動因、〈霊魂〉を持っています。その目的因は永続的な〈幸福〉であり、したがって、災厄にも揺るがない不動の〈アレテー(徳)〉が求められます。しかし、それは、プラトーンが言うような善の知識ではなく、体得すべき感性的な習慣です。人間は相互に影響を及ぼす社会的動物であり、習慣は社会、とくにその法によります。
では、どのようにして法が立てられるか。独裁政は私利私欲に走りがち、大衆政は状況や理屈で右往左往しがちなので、中間層の自由市民の現実的な衆知を結集する共和政が穏当だろう、とのこと。ここにおいて、彼は、自由市民が社会の永続的な幸福という〈目的因〉をめざす〈作動因〉、集団的霊魂として、〈神話〉を考えます。神話はフィクション(ミュトス、目を閉じて思うもの)にすぎないにしても、自由市民は、これを秘儀や演劇として繰り返し再認識することで、共有する社会的記憶とし、そこから〈アレテー(徳)〉として体得すべき習慣、その習慣を社会にもたらす立法を彼らは模索する、とアリストテレースは考えました。
優れたアレキサンドロス王子を育て、《自然の階段》の最上位に神々を置いたことからすれば、政治学においても、アリストテレースは不動作動の〈哲人王〉を第一にしそうです。しかし、、シュラークーサー将国などでの老プラトーンの試みの失敗を間近に見てきた彼からすれば、これに否定的だったのも当然でしょう。また、彼が、自由市民と分けて、支配に従うだけの奴隷の存在を容認、というより積極的に採り入れるべきとしたのも、アテヘェネー民国末期の対マケドニア政策の衆愚的混乱の渦中で振り回された経験に基づく判断でしょう。このように、アリストテレースの倫理学や政治学は、思弁的な空理空論ではなく、実証的な経験主義に基づいています。
アリストテレースの研究は、論理学から生物学、倫理学や政治学、演劇論まで多岐に渡っていますが、この《自然の階段》という形而上学において、すべての分野は一つの体系としてまとめられています。そこでは、彼が言うように、ムダなもの、ムダな研究はひとつもありません。
純丘曜彰(すみおかてるあき)大阪芸術大学教授(哲学)/美術博士(東京藝術大学)、元ドイツマインツ大学客員教授(メディア学)、元テレビ朝日報道局ブレーン
哲学
2023.10.16
2023.11.23
2023.12.30
2024.03.05
2024.03.14
2024.05.29
2024.06.23
2024.08.05
2024.09.10
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。