日産のゴーン社長は、必達目標経営を修正する考えを表明しました。数字の持つ力と成長時間軸について変化の兆しを洞察してみましょう。
目標達成型のリーダー代表格に挙げられるゴーン社長。2000年の日産リバイバルプランや2005年の日産バリューアップなど、数字を掲げて人心を統合するそのリーダーシップは、費用対効果(ROI)や指標化(KPI)などの意識を日本のビジネス社会でずいぶん高めることに寄与したと思います。コミットメント、CFTなどは今や一般のビジネス用語になりました。私もプロジェクトで課題の洗い出しと優先順位付けなど、日産のCFTが実際に行なっている事例を大いに活用にしています。
2008年度からの中計では、期間を3ヵ年から5ヵ年に延ばし、世界販売目標という最終数値目標を対象から外すようです。期間が5年に延びているのは、単年度の数字の積み上げを目標にできた成長期から、中長期的な安定成長を目指す成熟期に入ったとの認識からです。しかし、私はこの傾向は見事な業績回復と高成長を遂げた日産固有のものではないと見ています。
日産では、短期目標数値に縛られた社内に閉塞感が高まり、コミットメント経営疲れが表面化しています。日産180(2002-2004)に新車投入を前倒しした反動で目標達成を2009年度まで先送りするという実質的には数字の力が寄与しない状況がうかがえます。
米国を中心とする世界市場の変調や新興国の存在感など、外部環境要因の変化も手伝って、ここに来て数字による業務遂行と人材育成に軋みが目立つようになってきているのだと思います。トヨタも組織のフラット化や個人の専門性を重視するプロ人材の育成、年功序列ではなく単年度の成果で処遇する成果主義に課題が見え始め、個人重視に傾きすぎた反動で2000年以降チーム力が低下したとの反省があるようです。業績が好調な人材育成に定評がある他の企業でも、選抜教育ブームは一巡し、ミドル層の底上げ教育が見直されています。
これは、大局的に見ると成長という企業の大命題に直面しているに過ぎないと考えています。つまり、現場チームにおいても業務遂行と人材育成は成長両輪であり、経営においてもその両輪は同じです。企業における成長とは、事業機会と人材力の不均衡を拡大方向にバランスさせようとする運動ですから、今、多くの企業が既存の延長線上にない新たな事業機会を前にして人材力に喘いでいるのだと思います。人材育成は数値化しにくいし、一夕一朝では実現しない。だから、命題に立ち戻った途端、数値や短期というタームが、人や成長というタームに置き換えられつつある変曲点に差し掛かっているのだと思います。
これはヨットで言うと一種のタッキングです。ヨットは帆で風を受けて前に進みますので、順風なら行け行けどんどんですが、なんと逆風でも前進することができます。風を45度に受けて右に左にジグザグに進みます。事業も厳しい環境にあるとき、帆を降ろしてしまうのではなく、業務遂行と人材育成をタッキングしながら前に向かって進んでいくことができます。日本の企業にとって正念場です。
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2009.02.10
2015.01.26
株式会社インサイト・コンサルティング 取締役
わたしはこれまで人と組織の変革に関わってきました。 そこにはいつも自ら変わる働きかけがあり、 異なる質への変化があり、 挑戦と躍動感と成長実感があります。 自分の心に湧き上がるもの、 それは助け合うことができたという満足感と、 実は自分が成長できたという幸福感です。 人生は、絶え間なく続く変革プロジェクト。 読者の皆様が、人、組織、そして自分の、 チェンジリーダーとして役立つ情報を発信します。