ホタル乱舞は環境破壊の赤ランプ:大きな文明論の視点から

2023.06.03

ライフ・ソーシャル

ホタル乱舞は環境破壊の赤ランプ:大きな文明論の視点から

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/かの「脳学者」茂木健一郎だ。大衆向けの新聞では、こういう通俗的で浅はかな感動ポルノが、自分ではなにも調べない、考えない読者たちに受けるのか。/

事態が悪化するのは、奈良平安時代。人間が村を離れ、あちこちに町を作って、大量の建設資材や生活燃料を消費するようになる。このための大量伐採によって、日本の町の周辺は、またたく間にハゲ山に。それで、あちこちに遷都。しかし、そのせいで、よけいに日本中の樹林が消滅し、いよいよ雨水の土壌浸透は減り、土砂崩れも頻発し、小川は泥で埋もれ、カワニナもホタルもいなくなっていく。とはいえ、この山土流出、河流堆積によってこそ、日本は広大な水田を持ち、充分な食料を賄える農業国家へと飛躍していく。

武士の中世になると、防災と防衛のために植林が始まり、江戸幕府が「諸国山川掟」(1666)でみずから環境保護に務め、また、各大名家も特産品の商品木材として山を厳重管理するようになり、これらによって、状況は改善。我々が話に聞いて懐かしむ、ホタル飛び交う里山の風景というのは、この時代のことだろう。

しかし、明治維新で幕府も大名家も無くなると、政府と結託した地方の豪商がやりたい放題。藩の蔵入地であろうと、村の入会地であろうと、文明開化の建設や燃料の需要に応えるべく、ふたたび大量伐採を始めた。また、鉄鉱や石炭の掘り出しのためにも、山は乱開発され、鉱毒は垂れ流され、河川はいよいよ荒れていく。そして、大正昭和になると、20年の短期間で促成商品化できる針葉樹の杉などが大量植林された。

これが、戦後、焼け跡の復興を支え、計画的な植林で安定した林業サイクルを確立したかに見えたが、山はさらに保水性を失い、ふたたび土砂崩れや洪水などの災害をあちこちで引き起こすことになる。これを防ぐには、針葉樹の林業を止め、本来の落葉広葉樹林に戻せばいいのに、林業豪商や土建業者と結託して、行政は、大規模で強引な河川改修、治山事業を始める。すなわち、川をまっすぐにして、底までコンクリで固め、とにかく海まで雨を早く排水する。また、山には、すべての谷沿いに何段ものコンクリの砂防堰堤を築いて土留め。台風のたびに水に浸かっていた農地も改良して区画整理し、これまた水路をコンクリで固めて権利保全。

これでホタルは、いなくなった。コンクリで固められた川は、最短時間で雨水を流し出すだけの下水路となり、落葉どころか水草も水辺も無く、渋谷川などのように、ときには上を歩道にすべく、フタをして暗渠となった。これでは、ホタルの幼虫のエサとなるカワニナの取り付くシマも無い。おまけに、殺虫剤も同様の界面活性剤だらけの生活排水まで、ここに流し込んだ。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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