失敗学(4)全社員に告ぐ(前編)

2007.04.30

経営・マネジメント

失敗学(4)全社員に告ぐ(前編)

橋口 寛

米国で「名経営者が、なぜ失敗するのか?」についてのリサーチを進めた中で、忘れられないのは、雪印乳業の食中毒事件について行った電話インタビューの体験です。

守秘義務があるので、内容については言及できませんが、インタビューに答えていただいたのは、食中毒事件以降の雪印再生の鍵を握る要職の方でした。その方に、米国時間の深夜から明け方まで行った電話インタビューの間、私は何度涙ぐんだか分かりません。

経営者の判断の過ちが、どれだけ多くの従業員と顧客の生活に影響を及ぼすか。
長い年月に積み上げられ消費者からの信頼というものが、いかに一瞬にしてついえさってしまうものか。

「ブラインドテスト」という言葉をご存知の方も多いでしょう。

製品のブランドを隠した状態で、どちらが優れているか、どちらがおいしいか、を消費者に判断してもらう方法です。

食中毒事件前、このブラインドテストで、明治乳業の高級品と雪印乳業の一般品とを飲み比べてもらうと、70%の人が「明治の(高級品の)方がおいしい」と答えました。
しかし、両社のブランドを明記した状態で飲み比べを行ったところ、いつも決まって70%の人が
「雪印の方がおいしい」
と答えたといいます。

「何度やっても、この7:3の法則は変わらなかった。積み重ねたブランドの威力・不思議さをまざまざと感じた」
と、当時の明治乳業の幹部が語っています。

いかに、「雪印」「Snow Brand」に威力が強力だったか、長年にわたって積み重ねてきた信頼が大きかったをものがたるエピソードです。

以下の文章をお読みいただけますでしょうか。

全社員に告ぐ
当社の歴史上、未曽有の事件であり、光輝ある歴史にぬぐうべからざる一大汚点を残した。この影響するところ極めて大であり、消費者に大いなる不安を与えた。これはまさに当社に与えられた一大警鐘である。
最高の栄養食品である牛乳と乳製品をもっとも衛生的に生産し、国民に提供することが当社の大いなる使命であり、また最も誇りとするところであるが、この使命に反した製品を供給するにいたっては当社存立の社会的意義は存在しない。
信用を獲得するには長い年月を要し、これを失墜するのは一瞬である。そして信用は金銭で買うことはできない。
今回発生した問題は、当社の将来に対して幾多の貴重な教訓を我々に与えている。」

これは、雪印乳業の社長が、食中毒事件発生後に全社員に向けて発した痛切なメッセージです。

しかし、これは2000年の食中毒事件に際して発せられたものではありません。

実は、この言葉が発せられたのは、それをさかのぼること45年も前のことでした。

1955年当時の社長であり、後に「雪印中興の祖」と呼ばれることになる佐藤貢社長が発したものなのです。

佐藤社長は、なぜこのような言葉を発することになったのでしょうか。
そして、なぜ後に「中興の祖」と呼ばれるようになったのでしょうか。

(長くなりましたので、前後編に分けて掲載します)

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