超高齢社会にふさわしい「新しい敬老」について考える。

2022.09.29

ライフ・ソーシャル

超高齢社会にふさわしい「新しい敬老」について考える。

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

昔と、今の高齢者の違いはたくさんあります。その違いに対応して、敬老のスタイルも変わってよいはず。

また、65歳の人の平均余命(平均的にあと何年生きるか)は現在、男性が19.9年、女性が24.7年です。高齢者といっても“平均で”あと20年の長い人生があるわけで、老い先短い人たちとはいえません。3人に1人ですから、皆が現役世代に支えられる側となるのではなく、その元気さを生かして社会参加するように求められているのも大きな違いです。

さらに、昔は、「いつか衰えたら子や孫の世話になるもの」という前提がありましたが、今は高齢者のみの世帯が増えた(高齢者が住む世帯のうち「高齢者のみ世帯」は約6割)ために、最期まで子どもらの世話にはならず、自立生活を継続するというのが前提であり、目標となりました。

このように見てくると、「多年にわたり社会に尽くしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う」という昔ながらの敬老の精神は、今の高齢者に対してしっくりくるものではありません。多年にわたり社会に尽くしてきたのはその通りだとしても、昔の高齢者よりはるかに体力があって、まだまだ社会参加が十分に可能な元気な人たちですから、“敬愛”といった引退した人をいたわるような言葉より、エールを送りたいような気分になります。

超高齢社会における高齢者は、それぞれの持てる能力などに応じて社会参加することが求められますし、そう望んでいる人はたくさんいます。また、衰えて家族の世話になるのではなく、最期まで自宅で自立して暮らせるような健康状態を維持することを基本に考えている人がほとんどです。

そうすると、「いたわる」「保護する」「何でもやって差し上げる」といったニュアンスの敬老の精神は、高齢者への期待や高齢者自身の希望に反するものになりかねません。そうすればするほど、衰えが加速するからです。敬老の精神や行動が高齢者を弱らせること、高齢者の不健康や不幸せにつながってはいけません。

超高齢社会において、お年寄りを大切にするとはどういうことかという「敬老のパラダイム」を転換する必要があるでしょう。見違えるような体力の向上、社会参加や自立生活に対する意欲、健康に対する意識の高まりなどを見れば、超高齢社会にふさわしい「敬老の日」は、「高齢者それぞれの強みを一緒に見直し、それを発揮していただく機会を提供する日」なのではないかと私は考えます。


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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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