ある女性ストリートミュージシャンに出会って少し学んだことがある。彼女にとっては普通のことらしいのだけれど、大事なことだと思う。
ストリートライブが実は好きだ。自宅に近い錦糸町はストリートミュージシャンの隠れた名スポットでもある。特に南口。結構レベルが高い。
そんな場所でずいぶん前からアコースティックギターの弾き語りをしている人がいる。
井田聖子さんという。 http://www.bigtimemusic.co.jp/idaseiko/index.html
デビューは2000年というから、ずいぶんなキャリアだ。
大変失礼なのを承知で書くと、見た目はすごく普通な女性。
毛先をカールさせもしていない、ストンとしたロングヘアー。メガネ。メガネも昨今のメガネ萌えを意識してではなく、普通に近眼なんだと思う。
そんな彼女のちょっと普通じゃないところは、なぜか裸足で歌っていること。
一青窈もステージで裸足になっていたりするけれど、井田さんは駅前広場の石畳で裸足。この間は寒かったからか、さすがに布を敷いていたけれど。
まぁ、裸足はトレードマークでパフォーマンスの一部かなと思ってあまり気に留めなかったのだが、気になったのが、最後の曲の最後のフレーズ。
彼女の曲はどれも聴く者に優しく語りかけ、元気付けてくれるようなメロディーと歌声だ。
その日の最後の曲の終わりの部分で口元をマイクから離し、肉声で聴衆に向かって歌いかけたのである。
何とも印象的であった。
ライブ終了後、彼女にその所作のわけを聞いてみた。なぜ、最後にマイクを離したのかと。
すると「お客さんにちゃんと直接メッセージを届けたいからマイクを通したくなかった。普通のことだけど」という。
聞けば普通のことかもしれないが、マイクを通して歌い続けている中で、最後に聴衆のことをきちんと考えるということはなかなかできないように思う。
しかし、自分のことを振り返ってみると、少し通じるところがあるように思う。
講師の仕事が多くなって、特に一方通行の講演会ではなく、ビジネススクールや企業研修の講師を多くやるようになって、常に受講者のことを考える癖がついた。
そうしたときに、やはりマイクは邪魔だ。大きな教室で、大勢を相手にするときはさすがにマイクを使わざるを得ないけれど、できればマイクとスピーカーを挟まずに、肉声でやり取りしたいと思っている。
以前は大会場で大勢の聴衆を前に話すのが好きだった。プリンスの飛天の間なんかでやったときは最高だと思った。でも、一人一人の受講者と生のやり取りをするほうが楽しく思うようになった。
教室の隅々まで声を届かせるため、自然と腹式呼吸を身につけ、発声がよくなったように思う。ストリートライブの醍醐味と同じなんじゃないかと思う。
フツーな感じのストリートミュージシャンである井田さんも、いくつかのメディアに登場したりしている。錦糸町からメジャーに羽ばたいた人たちも何人かいる。彼女もそんな一人になるのかもしれない。
そんな彼女が普通だと思っているこだわり。聴衆へ直接語りかけるという所作はずっと続けてほしいと思った。
それからもう一つ思ったこと。顧客を生で感じて、直接それに語りかけるという姿勢。実は昨今の企業にも行政も求められているのはそういうコトなんじゃないかな。
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2008.04.12
2008.04.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。