/現在に内在する物事の特殊な一部も、一般にその過去や未来としての〈時性〉を付与することが可能であり、実際、かなりのものが、現在にあって現在ではないものとされている。/
24 現在の物事でありながら、過去の物事とされるものとしては、博物館の物品などがある。また、逆に、現在の物事でありながら、未来の物事とされるものとしては、新都市の計画などがある。
逆に、現在の物事を基準とすることによって、何のイメージなしにでも、その基準となる物事の過去や未来の物事を形式的に問題とすることができる。つまり、およそすべての物事は、いわば時性を転換する関数によって、別の物事を想定させる。そして、この時性転換関数とは、因果的脈絡を理解するものにほかなるまい。すなわち、ある物事の過去とは、その物事の原因となった物事であり、ある物事の未来とは、その物事の結果となった物事である。
この原因となったり、結果となったりする物事は、基準となる物事に対して、かならずしも代替的ではない。つまり、原因や結果は、当該の物事と現在において並存することもある。このために、現在に内在する物事の特殊な一部が、現在に存在しながら、過去や未来の物事とされており、くわえて、その物事が現在に存在しながら、現在の状況との適合性を持っていない(すでに失った、または、まだ得ていない)場合には、現在にあって現在ではないとされている25。
25 「代替」「添加」については、前章を参照せよ。
ただし、このように原因や結果とされているということは、現在の脈絡においてそのように設定されているということであって、かならずしも物理的・事実的なものではない。つまり、現在の〈生活世界〉の脈絡の統一整合性が失われないならば、虚構の過去や未来が設定されることもある。それどころか、むしろ、現在の〈生活世界〉の脈絡の統一整合性を高めるために、人間は好んで虚構の過去や未来を設定しようとする傾向がある26。
26 たとえば、太古の世界創造の神話は、いかなるものであっても、およそ現在の〈生活世界〉の脈絡の統一整合性には影響を与えないので、任意のものが設定されうる。そして、その任意の中でも、たとえば、ユダヤ教のように、混成民族にあって、民族の共通の祖先を想像することによって現在の〈生活世界〉の統一整合性を高めるようなものが選択される。また、災害や犯罪が起こったときに、たとえ冤罪であろうと誰かを魔女や犯人としてでっち上げなければ気がすまないのも、同じ人間の傾向に基づく。というのは、さもなければ、このような秩序の崩壊の原因が〈生活世界〉に潜在し続けているとすれば、それだけでも、その統一整合性が危機にさらされてしまうからである。
哲学
2022.02.16
2022.03.08
2022.04.03
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2022.11.24
2023.03.24
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。