激しい言葉でスタッフを叱責したり、泣かせる「指導」がテレビでも放映されます。昔からある地獄の特訓的スパルタ社員教育はなぜ存在するのか。そもそもそうした指導は意味があるのか、人事と経営視点で考えます。
パワハラの成立は受け止め方のようなあいまいなものではありません。厚生労働省が明確に規定しています。
パワハラ成立3要件
・職場の地位・優位性を利用
・業務の適正な範囲を超えた指示・命令
・相手に著しい精神的苦痛を与えたり、その職場環境を害する行為
社員は自完全自由意志によって自発的に研修に参加しているのではなく、「社命として」仕事の一環で研修を受けます。それを拒絶すれば服務違反、労働契約違反となるでしょう。そして暴言=言葉の暴力を伴う「研修」とやらは明確に人格否定や厳しい追及など「適正範囲を超えた指示」となっています。さらに泣き出す社員がいるほど「相手に精神的苦痛」を与えたという、完全にパワハラ3要件を満たしているのです。
・一番の責任は経営者
ハラスメントをした側は、必ず「昔は普通だった」「良かれと思って」「本人のため」と言い訳します。しかし現在のコンプライアンス上、ハラスメント行為者の意図に一つたりとも正当性は認められません。完全アウトです。
こうした地獄の特訓的手法は実は心理学的に証明された効果があります。洗脳手法です。
人格否定や寝かさない、食べさせないなど、極端に過酷な環境に監禁し、異常な心理状態に追い込み、自分や仲間を全否定させたりして自我を崩壊させることで、自分たちに都合の良い思想や考え方を吹き込むのが、昔からある洗脳手法です。
実際にテロ集団や犯罪に走った組織はこの手を使って、人間を戦闘マシーンや犯罪マシーンに改造しています。犯罪でもあるこうした異常な刷り込みによって「成果が出た」「怒ることは愛情」のような身勝手な評価で自己正当化をしている経営者こそ、喜んで社員にハラスメントを働いている責任者であると考えるべきでしょう。
就活学生はブラック企業を恐れます。一番見分ける方法は、その志望先企業がこのような「寝かさない・仲間の悪口を言わせる・怒鳴る・泣かせる研修」をやっているかどうかです。社員をマシーンとしてしか見ていない会社に入りたくなければ、ぜひ説明会のような公の場で質問してみてはいかがでしょうか。
洗脳の最後には報酬が待っています。「極限まで否定して人格を破壊した後、褒める」ことで、間違った快感信号を埋め込み、すべてを正当化できるのです。鬼研修の最後に笑ってうれし涙で迎えるハッピーエンドは、すべて計算し尽くされた改造手法なのでした。
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2023.07.31
2009.02.10
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。