気を付けなければならないのは、むしろ、現役時代の家に無理をして住み続けることによるダメージではないか。
これらを満たす環境に転居すればいいし、今の高齢者には新しい環境への適応力もあります。ところが「高齢者はリロケーション・ダメージを受けやすい」という“神話”を信じて現役時代の家に住み続けることによって、かえって、家の中での事故や不便・不安・孤独といったダメージを受けてしまう人がいます。
実際、消費者庁が集計したデータによると、2018年の高齢者の家庭内事故による死者数は「転倒・転落」が約8800人、「不慮の窒息」は約8000人、(ヒートショックなどをきっかけとした)「不慮の溺死および溺水」が約7100人で、交通事故で亡くなった約2600人をいずれも大きく上回りました。
現役時代の家に住み続け、だんだんと人との交流や会話が減っていって楽しみもなくなり、孤立感を覚えるようになる人も多くいます。最も避けるべきはこのような「住み続けダメージ」の結果、心身が早く衰えて自立生活が難しくなり、適応力が落ちた状態になってから転居することで、より大きなリロケーション・ダメージを受けてしまうケースでしょう。
昔と今の大きな違いを踏まえれば、リロケーション・ダメージは単なる神話です。環境変化への適応力が高い、高齢期の早い時期に住み替えれば、リロケーション・ダメージをなくすことも十分可能です。高齢の親の状況について心配している子ども世代の皆さんも、この点は理解しておくべきでしょう。
高齢社会
2017.06.13
2019.08.01
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2020.05.13
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2022.09.05
2022.09.29
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。