人口の95%が「ロックダウン」状態にあるアメリカだが、早くもあれこれと「コロナ後の世界」に関する予測が飛び交っている。そのうちのひとり、トロント大学リチャード・フロリダ氏の見解に大いに興味をひかれたので要約してみた。社会が一刻も早く「回復」するためには、「新たな常識」に基づく企業の敏速かつ抜本的な対応が要求される・・・。
コロナ後の世界では、空港や交通機関の中、学校やその他の多くの人が集う場所では、防護用品の配布が「常識」になると考えられる。必ずしも無料ではなく、有料で提供するという選択肢もあると思うが、とにかく防護用品の着用・使用が「必然視」されるようになるということだ。SARSの流行の際には、マスクや手袋、その他の防護用品の使用と手洗いの習慣づけが結果的には感染を9割がた抑制することにつながったと報告されている。
しかし、ひとつの問題は、今日、市場に出回っているマスクその他の防護用品はデザイン性に乏しくあまり見栄の良いものでないということだ。それが生活者が着用を躊躇する理由になっている。この非常時に多くのアパレル・ブランドが自社の製造ラインを活用してマスクの製造に乗り出しているが、これらのブランドがデザイナーを起用し、ファッショナブルで親しみやすい防護用品を開発したらどうだろう。また、アマゾン、UPS、フェデックス、ウォルマート、インスタカート、ウーバーなどといった配達・輸送業に従事する会社は、自社の従業員が着用するユニフォームにデザイナーを投入して、見る人の目にも心地よく、着る人の自尊心を満足させるようなワークウェアを考案すべきだ。
2.ソーシャル・ディスタンシング
どれだけ早いタイミングで予防ワクチンが開発されるかにもよるが、少なくとも今後12か月から18カ月の間は、社会的距離の確保(ソーシャル・ディスタンシング)が「新たな常識」になると考えられる。オフィスや工場、店舗など、人が集まる場所では、人々が距離をとって働き、買い物をし、あるいはくつろぐことができるよう、空間デザインの刷新が必要になる。もちろん、大きなことでなくすぐできる小さなこともたくさんある。たとえば、お店のレジの周りの床にテープを貼り、並んで順番を待つ人たちの立ち位置を示すなどといった工夫はもう既に行われている。
大がかりな刷新が必要となる空間もある。たとえば空港だ。セキュリティ・チェックや出入国審査、税関や手荷物受取所、ゲートなど、人の流れを円滑にし、混雑を避けるための工夫が必要になる。スポーツ競技場や映画館、劇場、ショッピングモールなども、人が安心して利用できるようにするには相当の変更が要求されるだろう。レストラン、フィットネス・センター、ヘアサロンやネイルサロンも同様である。
それと同時に、「パーソナル・サービス(個別サービス)」がより主流化する。これは当然の流れだ。コロナ・クライシス以前にも、レストラン業界における「デリバリー」へのシフトはすでに始まっていたが、これがさらに加速化する。いちはやくコロナ・クライシスから脱却した中国ではもう起きている現象だ。ヘアサロン、ネイルサロン、エステ、フィットネス・サービスなどは、「出張サービス」の需要が高まることを予期すべきだろう。また、レストランやバーは、先に述べたデリバリーのほかに、家庭での小規模なパーティに対応する「ケータリング」のニーズが増えることを想定すべきだ。ミュージシャンやその他のパフォーマーにとっても、ホーム・コンサートやホーム・パーティの需要に応えることが新たな収入源になる。
トレンド予測
ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。