労働施策総合推進法の改正案、いわゆるパワハラ防止法が可決、成立しました。企業には対策義務化が課され、早ければ大企業は2020年4月、中小企業は2年後の22年4月となる見込みです。ハラスメント研修では、官公庁や大手から中小企業までさまざまな職場、それも管理職向けのセミナーを行っている立場から考えます。
・パワハラ防止法の意味
罰則規定を設けないザル法という批判もある法律です。もちろん完璧なものではありません。それでも初めてパワハラがどんなものであるかを定義したという点はこれまでにないものといえます。「優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要な範囲を超えたもので、労働者の就業環境が害されること」この意味は非常に重要です。よく見ていきましょう。
「優越的な関係を背景にした言動」とは、上司はもちろん、同じ職位であっても発言権の強い人、例えばヒラ同士でも利益を稼ぎ出している営業の人が、バックオフィススタッフに対してプレッシャーをかけてくるようなことも、内容次第でハラスメントといえます。男性が女性に高圧的な態度を取る、新入社員にベテラン社員がいやがらせ発言をするのも含まれるでしょう。
しかし、上司や先輩が仕事を教える場面はどうなのでしょう?覚えが悪かったり、聞く態度がなっていない部下や後輩にイラつくことは誰でもあるのではないでしょうか。
・上司は「指導」もできないのか?!
ハラスメント研修で管理職の皆さんから寄せられる疑問のトップは「指導の仕方」です。何か強く注意すればすぐ「ハラスメント!」と騒がれたのでは部下指導なんかできないとう上司の方は少なくありません。
それは今回の法が、「業務上必要な範囲を超えたもので」と言っている部分が重要です。要するに新入社員はもちろん、経験の少ない、能力の落ちるスタッフに、ベテランである自分や上司と同じ能力を期待すること自体は悪くありませんが、それがかなわない時、「業務上必要な範囲を超え」た指導は行き過ぎとなります。
「ここは間違っているので直して」は業務上必要な指示です。一方、「こんなのもできないのか、このバカ」は業務上必要とはいえないのでダメとなります。「死ね」「クズ」はもはや業務を完全に逸脱した人格否定なので、即ハラスメントとされる可能性が極めて高いといえます。
職場で物理的暴力を振るうような人間はそうそう考えられませんが、威圧的な言動はハラスメントです。なぜなら部下や同僚を威圧することは、業務上不要だからです。書類で軽くたたく行為は、業務において全く必要がないはずなのでダメとなります。
・企業の責任が重くなる点が重要
パワハラとはなんぞやと、今頃言っているようでは、とても危険です。厚労省パワハラ6類型のように、何がダメなのかは、自分が決めるものではありません。政治家が失言で役職を下ろされたり辞任したりする例が後を絶ちませんが、「善意の指導」や「自分たちもこうして成長したんだ」という自分の意図は関係ありません。
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2019.10.15
2020.02.14
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。