ソニーがハイレゾ対応のウォークマンの新モデルとヘッドホンの新シリーズを発表した。若者層を中心ターゲットとしたその戦略に筆者は不安と期待を持っている。それは・・・
■新製品とその売りのポイントは
9月8日にソニーから配信されたニュースリリースによると、発売されるのは「Aシリーズ」というウォークマンと新シリーズのヘッドホン「h.ear(ヒア)」。リリースの中でも「これらの商品を通じて、臨場感あるハイレゾの音楽をファッショナブルに気軽に楽しむスタイルを、若い世代を含めたより多くの方々に向けて、ご提案してまいります」とある。その言葉通り、商品の特徴としてまず目に付くのは色である。ウォークマンとヘッドホンは同色でコーディネートでき、6色のバリエーションを揃えている。若年層の携帯音楽プレイヤーもファッションの一部として考えるという嗜好をとらえようということだろう。
■ブランドの悩み、あるいは宿命
そもそも、なぜ、今回ソニーはターゲットに若年層を選んだのだろうか。そこには、ソニー、もしくはウォークマンというブランドに限らす、全てのブランドが背負う一つの宿命に抗うためだ。その宿命とは、何もしなければ人や生き物と同じく歳を取って老いていくということである。一世を風靡するほどのファンが付いたブランドほど、そのファンのロイヤルティーは高く、長くそのブランドを愛用する。しかし、その反面、それ以外の層からは「自分たちのブランドではない」とみなされがちになる。それ故、何らかの手段でブランドの若返りを図る必要が出てくるのである。
ウォークマンはかつて一世を風靡した音楽プレイヤーのトップブランドだったが、アップルの参戦によってその座を譲り渡すことになった。その後、アップルがiPhoneに注力し、音楽プレイヤーのiPodに力を注がなくなった結果、今日のシェアではソニーがトップに返り咲いている。しかし、携帯音楽プレイヤー市場全体(ソニーとアップルのシェアでほぼ占められている)を見れば生産台数は減少傾向が顕著といわれている。音楽を聴く手段がスマートフォンやiPhoneが主体となってきているからだ。そうなると、わざわざウォークマンを購入するのはソニーブランド、もしくはウォークマンブランドにこだわりのある中高年以上の層が中心となってブランドが老いることになってしまうのだ。
■ハイレゾという新技術がもたらした好機?
近頃耳にする新しい技術「ハイレゾ」とは、「ハイレゾリューション(高解像度)」のことで、 その「ハイレゾ音源」というものは、スタジオで録音したマスターが持っている情報量により近い高解像度を実現し、CDよりもさらに多い情報量によってCDでも再現できない音のきめ細かさと臨場感が得られるという。
そのハイレゾ対応のスマートフォンも既に数機種登場しているが、このためにわざわざ機種変更をするのはコストとタイミングの問題もある。そこで、すぐに試したいなら音楽プレイヤーの出番だ。ニュースリリースで伝えられたアンケートの結果 によれば、「ハイレゾの認知率は約4割。20代男性では約7割」だという。やはり他の年代より数値は高く、これは好機と言えるかもしれない。ただ、気になるのが全体平均では「<他人に詳しく説明できるレベルで知っている>人は8.8%、<他人に説明はできないが、知っている>人は27.7%と、あわせて36.5%」となっており、年代別では詳細が示されていない。20代男性の7割の中味も言い換えれば「何となく知っている」レベルが大半だと思われる。
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ヒット商品・新商品分析
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。