「価格・価値・差別化の関係」を理容店のヒゲ剃りで考える

画像: Thomas Leuthard

2015.08.21

営業・マーケティング

「価格・価値・差別化の関係」を理容店のヒゲ剃りで考える

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 髪は美容サロンで切るが、時々、理髪店でヒゲを剃ってもらう。ヒゲは毎朝自分で剃っているが、たまに人にやってもらうと気持ちがいいからだ。気持ちがシャキッとして、少し気合いも入るので、プレゼンや講演前には、一種のおまじない的な効果もある。では、そんなサービスの価格と価値は、どんな関係であれば顧客に受け入れてもらえるのであろうか。そして、競合とはどのように差別化を図るべきなのだろうか。

■2通りのヒゲ剃りサービス
 さて、前回の記事、「サービスの価格と価値を再考する」で、理美容業界(を含むサービス業)の基本的なサービス料金(技術料)は稼働時間に比例して、標準的には10分で1,000円だと述べた。故に、激安と思われている「QBハウス」の価格も、実は業界相場通りで、それを顧客回転率で稼いで実現しているのだということも紹介した。

 筆者が時々ヒゲを剃ってもらうのは、15分で1,500円の店と、25分で2,500円の店である。どちらも前述の時間と価格の関係でいえば、「業界相場」ということになる。

 2,500円の店は「理髪職人」然としたオヤジが剃ってくれる。たっぷりと蒸らしたタオルとシェービングクリームでヒゲを柔らかくし、アゴの辺りのクセヒゲも皮膚をあっちに引っ張り、こっちに引っ張りして時間をかけ徹底的に丁寧にやってくれる。そしていつも終わると「お客さんのヒゲは大変だよ」と苦笑いする。
 1,500円の店はイマドキの髪型をした若いお兄さんか、かわいいお姉さんが剃ってくれる。こちらはとにかく剃るのが早い早い。肌が切れたらどうしよう、皮膚が皮がむけたらどうしようと思うような、ちょっとしたスリルも味わえる。ナゼ手早くやるのかといえば、15分をフルにヒゲ剃りに使うのではなく、まゆ毛の手入れや鼻毛切り、少し崩れた髪の再セットまでやってくれる。そのサービスの時間を稼ぐための涙ぐましい努力なのである。

 さて、読者のみなさんはどちらの店を選ぶだろうか?

 その答えを考えるにあたって、筆者愛用の2,500円の店と1,500円の店、両店は何をどのように実現しようとしているのかを掘り下げて考えてみよう。

■「製品特性分析」で考えるヒゲ剃りサービスの価値
 そもそも「ヒゲ剃り」の価値とは何か。「製品特性分析」で考えてみる。対価を払う理由となる中心的な便益である「中核的価値」は、「ヒゲをキレイさっぱりなくすこと」だ。それを実現するために欠かせない「実体価値」は、「確かな技術」である。そして、中核的価値の実現とは直接関係はないが、魅力を高める要素である「付随機能」が、「ヒゲ剃り関連の付加サービス(フルサービス)」ということになるだろう。

 製品特性分析を考えるにあたっては、もう一つ、プロダクトライフサイクル(Product Life Cycle=PLC)との関係も考慮する必要がある。導入期>成長期>成熟期>衰退期とステージが進むに従って、通常、製品・サービスが顧客から求められ、競合との勝負のポイントとなる要素は中核>実体>付随と徐々に外側に移行していく。
 具体例としてはデジタルカメラがわかりやすい。導入期は中核である「きれいに写真が写ること」を実現する「画素数」の競争だった。それが成長期では「きれいに映る=レンズの良さ」などを勝負としてツアイスやライカのレンズ搭載が「実体価値」として流行った。成熟期以降ではもはや「きれいに写真が写ること」とは直接関係のない「無線ですぐに画像が共有できる」「動画機能が強化されている」などが「付随機能」として勝負のポイントとなっている。

次のページ■「コストリーダー戦略」と「差別化戦略」という2つの選択肢

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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