ベストプラクティスによる属人性排除の幻想

2008.02.18

経営・マネジメント

ベストプラクティスによる属人性排除の幻想

伊藤 達夫
THOUGHT&INSIGHT株式会社 代表取締役

 業務のシステム化は経営の大きな課題ではあります。私も、業務改革プロジェクトに、何度か携わったことがあります。ただ、その本質的な部分に対する理解に基づいて、業務を改革し、システム化していくというプロジェクトにはあまり出会ったことがありません。

 たいていの業務改革、業務改善と称したシステム導入プロジェクトは大きな会議室、プロジェクトルームで始まります。口火を切るのは、経営者や、システム担当役員であったりします。

 「わが社は、大きな成長を遂げてきました。その成長スピードに、業務がついてきていないのではないか?という疑問がみなさんにもあるでしょう。現在も当社は成長の途上にあります。今のうちに、しっかりとした業務システムを作り、個人の技量に頼らない業務のあり方と言いますか、人が入れ替わったとしても、業務に支障がないようなシステム作りをやっていきたいと思います。その際に、トップ企業であるA社の業務をベンチマークしてやっていって欲しいと思います。そういった部分を固めていくことが、今後の当社の発展に寄与するものと確信しています。」

 パチパチパチ、と拍手が会議室に巻き起こります。長い長い業務改革プロジェクトの始まりです。たいていは、6ヶ月ぐらいの期間、プロジェクトが続き、要件定義がやっと終わって、次の何ヶ月かでシステムを入れて、テストして、運用開始、となります。規模にもよりますが、1年以上かける会社もありますね・・・。5年ぐらい前までは、こういうプロジェクトの後、動かないシステムが出来上がることがしょっちゅうでしたが、最近は、少しは動くシステムになるようです。

 でも、残念ながら、この当初の挨拶をしているリーダー、経営者のもとでは、競争力のある業務を作り出すことはできないでしょう。そして、スタッフの能力は向上せず、いわゆる「経験曲線によるコスト削減」すら怪しいのではないか?と考えられます。
 

 え?何が悪いの、と思います?


 本質的な部分が間違っていることにお気づきでしょうか?

 この経営者の方は、同業であれば、業務のあり方は同じようなものだろう、と考えておいでです。そして、トップ企業のシステムを真似ればもっとうまくいくのでは?と考えています。更に言えば、業務というのはあまり変化していかないものだと思っているようです。これは大きな誤解であり、リーダー、経営者が抱きがちな幻想に起因しています。

 その幻想とは何か?リーダーのマネジメント能力と、業務の効率、社員のクオリティは関係がないという幻想です。

 ひどい言い方をすれば、
 

 「俺は優秀なのに、社員はできないなあ。」


 という幻想ですね。業務なんて、社員のクオリティは気にせずに、トップ企業のものを真似ればよくなるだろう、と経営者は思ってしまいます。でも、いくらトップ企業と同じ業務のやり方をしても、いる社員のクオリティが違えば、効率は変わってきます。バットの振り方を同じように教えても、イチローのように打てるバッターもいれば、球に当たらないバッターもいるのと同じ、とよく言いますね。

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伊藤 達夫

THOUGHT&INSIGHT株式会社 代表取締役

THOUGHT&INSIGHT株式会社、代表取締役。認定エグゼクティブコーチ。東京大学文学部卒。コンサルティング会社、専門商社、大学教員などを経て現職。

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