/高度経済成長とともに、日本のサラリーマンの理想像として、「武士道」を語るビジネス書や自己啓発書が大量に粗製乱造されるところとなった。そのほとんどすべてが、自分の恣意的な思想を、時代劇の通俗イメージに仮託したものか、せいぜい新渡戸稲造『武士道』邦訳ないし極論の山本常朝『葉隠』を敷衍したものであって、史料的にも、文献学的にも、およそ学術考証に耐えるものではない。/
その典型が、赤穂事件の始末に関する論争であろう。事件が起きてはじめて、こうすべきであったのに、こうしてしまった、したがって、これくらいの処分がしかるべきである、というような規範当為が語られるようになる。このような法哲学の現象学的手法に基づいて、実際の武家の人々の言挙げ以前の日常生活を再認識していくことによってこそ、そこに真の武士道、武家倫理を体系的に見出すことができるのではないだろうか。
謝辞:加藤和哉先生(聖心女子大教授)「『武士道』執筆の背景と真の意図」(『キリスト教をめぐる近代日本の諸相:響鳴と反撥』第1部第2章、オリエンス宗教研究所、2008)は、当論考とちょうど表裏をなすもので、新渡戸の『武士道』の側を追っている。新渡戸と内村のクリスチャン内での微妙なズレなど、大いに学ぶところがあった。末文ながら、深く感謝を述べさせていただきたい。)
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『悪魔は涙を流さない:カトリックマフィアvsフリーメイソン 洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書』などがある。)
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2015.07.17
2009.10.31
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。