うまい文章を書きたい。わかりやすく説明したい。聞いている人を引きこむような話し方をしたい。より伝わるコミュニケーションを求める人は、多いのではないか。自分の言いたいことを、相手に的確に伝える。そのために必要なのは、「ふさわしい」言葉を選ぶことだ。
「言葉が思考を規定する(同書、P3)」
人は、言葉で考える。普段、あまり意識することはないかもしれないが、実際には当たり前のことだ(もっとも、ある数学者にお話を伺った時、彼は数式で考える、と仰っていたが………)。逆にいえば、知らない言葉を使って、人は考えることはできない。
例えば「超ひも理論」を知らない人は、「超ひも理論」について考えることはできない。あるいは「リーマンショック」を理解できていない人は、「リーマンショック」という言葉を使えるけれども、相手に伝わる筋の通った話をすることはできない。
だから、言葉を多く知っている方が、物事をより多面的に深く考えることができる。これを筆者は「語彙力と頭の良さが関係があるというのは、経験的に知られていることです(同書、P3)」と述べる。もちろん、ただ言葉をたくさん知っているからといって、それだけで頭が良いというわけではない。知っているだけでは「語彙力」とはならない。量だけではなく、質も問われるからだ。
つまり「語彙力」=知っている言葉の量✕知っている言葉の質となる。どうすれば語彙力を高めることができるのだろうか。
「表現と理解(同書、P24)」
子どもと母親が歩いていて、その前を散歩中のワンコが通ったとする。その時、子どもが
「あっ、イヌ!」
と言ったとしよう。子どもが言葉を発し、その言葉を聞いて母親は、子どもが伝えようとしたことを理解する。この時、子どもと母親の認識のプロセスはどうなっているか。
「子どもにとっての『イヌ』の認識は、①『道を散歩している柴犬』という対象を見て、②『四つ足で歩き、ワンワンなく動物』だと判断し、③その意味に結びつく語形『イヌ』という声を発した、という順序になります。
一方、母親にとっての『イヌ』の認識は、①子どもの発した『イヌ』という音声を聞き、②その語形に結びつく意味『四つ足で歩き、ワンワン鳴く動物』がいると判断し、③『道を散歩している柴犬』という対象を確認する、という順序になるわけです(同書、P24)」
長々と引用した理由は、言葉を発する側と言葉を受け取る側での思考順序の違いを理解していただきたいから。これは文章を書くときも同じだ。書き手は、自分が考えた順に書いていく。読み手は、自分が読んだ順に理解していく。言葉にすれば些細だけれど、この理解プロセスの違いを頭に入れておくのが、読み手に伝わりやすい文章を書くコツだ。
また語彙力には2種類ある。理解語彙と使用語彙である。聞いたり読んだりした時に意味を理解できるのが理解語彙、話したり書いたりするときに使えるの使用語彙である。
その関係は「理解語彙数>使用語彙数(同書、P26)」となる。
つまり、知っている言葉だからといって、それを適切に使えるとは限らない。もとより、知らない言葉は使えない。
「使用語彙では、読み手に違和感を与えないことが重要で、読み手の知識や文脈、感情などに配慮することが求められます(同書、P33)」
関連記事
2015.07.17
2009.10.31