「デフォルト」という言葉を聞くと、通常はパソコン用語を思い出すだろう。<本来、ユーザーが何らかの値を指定すべきところに、特定の値をあらかじめ登録しておいて、ユーザーが何も設定しなければその値を採用するの「デフォルト値」>だ。
しかし、本来の英単語defaultは <〔義務などの〕不履行・怠慢>である。つまり、パソコン用語においては<デフォルト設定とは,「ユーザーが怠けてもいいようにする設定」>と解釈できる。(参考:IT pro)
我々の生活の中にもわざわざ指定しなくとも、暗黙の了解のごとく提供される物事が数多くある。例えば、飲食店で席に着けば、注文していないのに水かお茶が出される。食事の前にちょっと喉を潤したいという顧客が希望を言うところを、デフォルト化して怠けていいようにサービスしているわけだ。
対顧客への「デフォルト」は、多くは顧客に怠けていいように働きかけ、顧客満足の向上や利便性の提供のために設定されているが、全ての人が満足しているわけではない。
例えば、東海道新幹線でグリーン車に乗ると、使い捨てのオシボリが提供される。受け取るとすぐに顔や首を拭く人も多いが、筆者は夏でなければ基本的にはあまり使わない。わざわざ「いりません」というのも意固地な感じなので、何となく受け取って、そのままポケットにしまい込み、後日気がつくと乾燥していたりする。人によってありがたみは当然異なる。
一見、顧客サービスになると考えて行われていることでも、それが効果的でなければその費用は冗費となる。また、今日の大きな課題である環境問題を考えれば、小さなこととはいえ明らかに環境負荷を高めることになっているのだ。
そんな中、「デフォルト」を見直す、画期的ともいえる取り組みが紹介されていた。
<ローソン京大店がレジ袋を原則廃止 全国のコンビで異例>(asahi.comより)
コンビニでは少し前まで、デフォルトとして飲料一本を購入してもレジ袋に入れてくれていた。昨今、環境負荷軽減のため「袋はご利用ですか?」との声かけが励行されるようになってきた。それを更に一歩進めて、「必要な顧客が自ら申し出る」という方法に切り替えたのだ。つまり、顧客はデフォルトではなく、必要なときには自己申告をするというスタイルだ。
レジ袋削減のために、原則有料化をしている企業も登場しているが、必要な人もそうでない人も、一律に課金し、費用負担がいやだから利用を見合わせるという選択を強いるのはあまりスマートではない。不要なものはもらわない。必要なときには「ください」と言う、当たり前なスタイルは、顧客の環境意識を高めることにも繋がる良策だといえるだろう。
筆者のポケットで乾燥してしまう新幹線オシボリのごとく、不必要なデフォルトは注意してみれば身の回りにたくさんあるだろう。ITproの記事も<「デフォルトのまま使い続けると危険」といった意見を聞いたことがある人もいるだろう。><いくらデフォルト設定で楽ができるからといっても,管理者用のIDやパスワードといったデフォルト値は変更して使うべきだ。>と締めくくっている。地球の環境もこのままでは危険なのは自明だ。
生活者は不要なデフォルトを断る習慣を持つと同時に、企業もローソン京大店のような冗費と環境負荷を削減する取り組みを一層進めるべきなのだ。
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2008.01.24
2008.02.02
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。