外食チェーン大手のワタミは、2015年4~6月期の連結決算を発表しました。発表された連結決算を見ると赤字幅が拡大し、大変厳しい結果となっています。このような状況のもとで、ワタミの復活は本当に可能なのでしょうか?
渡邊氏は2003年、破綻寸前だった郁文館高校・中学の経営再建に名乗りをあげ、理事長に就任。渡邊氏は、「私たちの学校経営は先生が生徒のために死ねる経営です。その経営についてこられない人はどうぞやめてください」と全教職員に話し、教員に携帯電話番号を生徒に教えさせ、「365日24時間電話していい」と伝えるよう求めた。また、給料削減を実施するなどした結果、2003年から2年間で100人弱の教員のうち30人が退職した。
問題を起こした生徒に対しては、400字詰め原稿用紙100枚の反省文を書かせ、提出するまでは授業を受けさせないなどのペナルティを与え、反省文を書きたくなくて転校する生徒もいたという。今年3月に郁文館中学を卒業した生徒によれば、一学年約160人のうち14人が退学している。
<週刊文春 2013年6月号>
この記事の内容が事実だとすると、生徒からの信頼が厚く、指導力に自信をもつ優秀な教員ほど、他校や学習塾などに転出するリスクが高くなることが予想されるため、一時的には生徒に提供する「教育品質の著しい低下」が起こるはずです。 事実教員総数の3割にも上る教員が退職し、また反省文を書かせる行為などにより、14名の生徒も退学しています。
しかし渡邊氏ほどの人物が、そのような事態に陥ることを、事前に想定していなかったはずがありません。 よって渡邊氏は、意図的に「生徒の“ありがとう”を集める」活動を横に置き、渡邊氏自らが策定した「理念」を、教員や生徒に対して浸透させることを優先した、ということになります。 但し常識的に考えると、生徒や保護者が教員に対して、「生徒のために死ねる」ことや「365日24時間電話できる」「100枚の反省文を書かせる」などといった極端なことを要求するはずがありませんから、生徒や保護者のニーズに基づかない行動を、理事長自らの意思で優先的に行ったということになり、そこに本来の理念との矛盾が生じています。
ある受験機関によると、郁文館中学の2015年の入試倍率は1.5倍程度に留まり、歩留まりなどから推測すると、ほぼ応募者全員が入学できる、実質「全入状態」となっているようです。昔の郁文館はもっと人気のある学校でしたので、渡邊理事長が主導する「改革」は、現時点では受験生や保護者の支持を十分に得られていないもの、と推察されます。
おそらく同様のことが、ワタミでも日常的に行われていたのだろう、と思います。そして経営者が「お客様の“ありがとう”を集める」行動よりも、従業員等に対する「ワタミ理念の浸透活動」を優先させたことにより生じた矛盾が、ESの低下とブラック企業批判を引き起こし、同時に多くの顧客の信頼も失っていったのだろう、と考えられます。
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2009.02.10
2015.01.26
川崎 隆夫
株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタントの川崎隆夫です。私は約30年にわたり、上場企業から中小・ベンチャー企業まで、100社を超える企業の広告・マーケティング関連の企画立案、実行支援や、新規事業、経営革新等に関する戦略計画の立案、企業研修プログラムの策定や指導などに携わってきました。その経験を活かし、表面的な説明に留まらず、物事の背景にある真実が浮かび上がってくるような、実のある記事を執筆していきたいと思います。