「人の役に立ちたい」「社会貢献のために御社を志望しました」新卒学生のエントリーシート・志望動機では限りなくよく使われる言葉ですが、中途入社の30代の方のものでもたまに見かけます。人の役に立つことが悪いのではもちろんありません。思考停止がダメなのです。ではなぜ「人の役に立つ」と書くことが思考停止なのでしょう。
・「人の役に立つ」って何?
エントリーシート添削や面接練習においてこう述べる人に、必ずその具体的説明をしてもらうようにするのですが、これまでそれを明確に説明できた人とは、学生だけでなく社会人ですらほとんど会ったことがありません。「人の役に立つ」「社会貢献」を志望動機に挙げる人はゴマンといますが、その志望動機自体を具体的に説明できないのです。
志望動機は企業が選考する上では最重要ポイントの一つ。具体的な説明もできないということは、そこがグラグラに揺らいでいると思われても仕方ありません。一番アピールしなければならないことがアピールとして成立していないのです。ではなぜこのような志望動機を語る人は多いのでしょう。
単に理由を聞き出すだけでなく、私はキャリア「カウンセリング」を行っていますので、そうした行動・思考に至った心のあり方のようなものが見えてきます。実際に一番多い理由は、「それが正しいと思ったから」だといえます。就活マニュアル、ノウハウの例でも、「人の役に立つ」「社会貢献」は堂々たる王道の模範例としてたくさん見受けられます。
もし人の役に立ちたいのであれば、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェット並みにがんばって仕事で大成功して、大金持ちになって、社会に還元するのがてっとり早いのではないでしょうか。あるいは介護福祉の施設などでヘルパー等の仕事に就くのはどうでしょう。常に人手不足で募集があります。これらこそ本当に求められ、役に立てる仕事だと思います。しかし圧倒的多くの場合、日本を代表するメーカー、金融、商社といった企業への志望理由でこれらは登場します。
・「人の役に立たない仕事」とは
面接練習であれば、必ず聞くのはこの質問です。では「人の役に立たない仕事」とは何ですか?今まで答えられた人に会ったことがありません。もちろん犯罪や反社会活動は答えになりません。あくまで合法的である、コンプライアンス上問題がない職業職務であり、なおかつ人の役に立たない仕事なんてあるのでしょうか。キャバクラや風俗産業、公営ギャンブルなど、すべて合法な職業であって、法律という一線を越えたものは職業ではありません。合法な経済活動は雇用を生み出し、従業員が生活することで需要と供給のサイクルを回します。もちろん納税によって、直接的な社会還元も行われます。
繰り返し述べますが、「人の役に立つこと」が悪いのでも、社会貢献を否定しているのでもありません。それだけを志望動機として並べ立てるのは、説得力がなく、何よりインテリジェンスを感じさせないから損なのです。日頃指導をしている、いわゆる高偏差値大学や理系大学院の学生が、ここに何の問題意識も持たずに言いっぱなしであることが問題なのです。
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2015.10.06
2015.10.16
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。