「老いの工学研究所」のHPに掲載したコラムを転載しました。
従って、高齢男性の充実度・幸福度を上げるための策は、二つ考えられる。
一つは、活動の場を用意するだけでなく、パラダイムの転換を促すための再教育を行うことだ。諸活動に参加する際の心理的バリアを取り除くには、これまでとは異なる価値基準、モノの見方を身に付けられるような機会が必要である。もう一つは、逆に、生涯現役を制度面で後押しし、高齢男性が価値観を変えずとも活き活きと生きていけるようにすることだ。例えば、企業に対して定年退職制度を禁止し、同時に高齢者の求人情報(ボランティアを含む)を積極的に提供する。定年退職は年齢を理由にした雇用差別であるという考え方があり、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなどでは法的に禁止されている。日本でも求人票に年齢を記載するのは採用差別である(仕事の能力と年齢は関係がない)として原則禁止しているのだから、退職についても同じように考えるのは一貫性があり、当然の措置とも言える。
付け加えれば、男性に限らず、高齢者にとってあるいは高齢期を迎えるに当たって、①と⑥について心得ておくべきだろう。①について言えば、老いをネガティブに捉え、若さに憧れる風潮は相変わらずで、健康維持や見た目の若さへの関心は高いが、老いを受け入れた上で、年相応の成熟を追求しようという機運はあまり感じられない。⑥では、昔に買った郊外の広い一戸建て住宅に、掃除や維持管理の大変さ、老朽化、孤独などを嘆きながら住みつづけている人が多い。高齢者のニーズにしっかり応えられる住宅の供給が前提にはなるが、積極的な住み替えが進めば、長い高齢期を楽しく過ごせる人は増えるはずである。
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2015.07.17
2009.10.31
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。