アメリカでは「ボスなんかいらない!」という職場が増えている。「中間管理職の絶滅」なんてことも言われ始めている。米WSJ紙の記事「上司不在の職場」に触発され、その意図するところを考察。
民主的とは「万人のため」にあらず
「上司不在の職場」が機能するための前提条件は、「高いモチベーションをもった人材を確保すること」だと記事は述べる。また、「民主的な企業」を認定するワールドブルーも、「企業が民主的である」ということは、「万人に合う環境をつくること」ではないと定義する。
「上司不在の職場」が機能するためには、「個人の適性」以外に、組織的な前提条件もあると私は思っている。工業経済社会の遺産として引き継がれてきたマネジメントの考え方では、「指令による制御」が基本となっていた。しかし、「上からの指令」を取り除き、現場で働く社員の一人ひとりに権限を委譲するとなると、組織の統制は何をもってしてとられるようになるのか。
「指令」にとって代わるのは、社員間での目的意識と価値観の共有である(因みに、これはワールドブルーによる「民主的な企業」の基本原則のひとつともなっている)。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事の中にはこれは述べられていなかったが、職場での「自由=権限委譲」が成立するためには、これが必要不可欠だと私は思っている。
「上司なんかいらない」と言われないために
それにしても、「上司不在の職場」から読み取れるのは、現状として、いかに「上司」という言葉がネガティブな概念と結びついているかということだ。「上司不在の職場」を描写する形容詞は、フラット、敏速、やる気に溢れた、柔軟性に富んだ・・・などだが、そうだとすると、「上司がいる職場」は階層的で、行動が鈍く、やる気に欠け、柔軟性に乏しいということになるか・・・。
「上司」とよばれる立場にある人にとっては、耳の痛い警告である。「上司なんかいらない」と陰口を叩かれないためにも、組織に付加価値を与える上司になるためには、どんな人間であるべきかを自問自答せねばならない。これについてはまた別の機会にじっくりと考察してみたいが、まず言えることは、人に信頼される行動や言動をとることである。「指令による制御」が働かないとすれば、人が心から、「ついていきたい」と思うような人になる努力をせねばならない。
そして、チームの潤滑油となることである。これは別に八方美人になれということではない。自分が人気者になるというよりは、チームの人たちがつながりを深め合えるような「お世話役」として働かねばならないということだ。これは時に、みんなが口に出しにくい問題点を指摘したり、居心地の悪い議論の口火を切ることでもある。
最後に、ザッポスのCEOトニー・シェイの引用になるが、「インスピレーションを与える人」になるということである。「インスピレーション」とは、日本語でニュアンスの伝わりにくい言葉だが、私は、「自分のあり方によって人の心を動かし、自発的な行動へと突き動かす人」であると思っている。これらのことを総合すると、これからの「上司」には、IQならず、EQ(こころの知能指数)がますます問われるようになってくるということだ。
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ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。