職場の先輩や上司が、部下や後輩に対して知識、技術、態度などを指導するOn the Job Training (OJT)。入社後、一通りの集合研修を行った後に、OJTによって新人社員への指導を継続する企業がほとんどであろう。しかし、このOJTが必要なのは入社したての社員だけではない。
関は「とにかく東京で仕事をしたい」という思いからアシストに入社を決めた。
「かなり意気込んでいたのですが、自分には特にこれといった武器はありませんでした。一度、自分が採用された理由を採用担当に聞いたことがあるのですが、『普通のケース』という回答でした。記憶に残るような特に目立ったところがなく、無難に受け答えをして、無難に採用されたようです」
「文系でしたし、採用時の役員面接でも『営業になりたい』とアピールしました。でも気づけばずっと技術をやっています。実は、入社1年目の時に営業と技術のどちらに配属されるかを決める面談があったのですが、その時営業から全く勧誘されず、技術になったんです。同期は何人か勧誘されていたので、ちょっとショックでしたね」
関のOJT担当者だった一人で、現在の上司でもある中村は、こんなふうに語る。
「1年目に、研修などを通じて受けた彼の印象は、『黙々と課題に取組む、求道者』。当時から理論的な思考で、文系出身、コンピュータに関する経験は殆どないとは思えないくらい頭ひとつ抜きん出ていましたが、どちらかというと他人は他人というような雰囲気を持っていたように思います。しかしここ数年、彼はチームのわけ隔てなく、また先輩後輩の垣根を越えてメンバーの様子をウォッチしながら、必要に応じてアラートをあげてくれます。マネージャになかなか相談できないという風潮自体は私達マネージャ側が改善していかなければならない課題ですので、仲立ちをしてくれている彼にはとても感謝しています。今も求道者の印象は変わりませんが、それに加えて『困っている人を放っておけない』彼の意識を強く感じます。次期リーダー候補として、非常に頼もしい存在です」
部下の面倒だけでなく、同僚や上司からの信頼を得ている関の仕事ぶりは、やはり人一倍の気配りの賜物かもしれない。
「仕事については、慎重な性格がプラスに働いているのかもしれません。新人の時、初めてお客様先で作業をすることになり、しかも遠方だったので、先輩社員は同行してくれないことになりました。何度も何度も社内で同じ手順を試して、100%成功することが分ってから作業に行きました。今でもその気持ちを忘れずにいます」と関は言う。
関の話し方はビジネスライクでありながら、しかし聞き手が理解しているのかどうかを常に意識している気配りが伝わってくる。それは彼自身が自己分析している、その「慎重さ」からくるのかもしれない。そして気遣いという意味では、相手が顧客であっても後輩社員であっても関にとっては同じことなのだ。
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