「高品質なら高価格で売れる」という従来の常識が通用しない無料経済(フリー)が、インターネットを支配している。有料で売れない理由は、「価格が高いか安いか判断が付かない」と消費者を迷わせる心理的負担にある。仮想アイテムに、心理的ハードルを越えて買ってもらえる価格を付けるにはどうしたらいいだろうか。Zyngaの『Caf? World』や『Treasure Isle』から、その方法を学ぶ。 [野島美保,Business Media 誠]
マネタイズの本質は、ユーザーの心理的負担の少ないルートを用意することにある。アイテムはゲームの中でしか意味を持たないのでほかと比べられず、その価格が高いか安いか判断が付かない。無料で利用させることで初めて、有料アイテムの価格に対して判断基準が生まれる。ユーザーに判断基準を持たせることによって、心理的取引コストを下げることができるのである。
限界の演出は、基本は「引っ掛からずに」流れて気持ちがよいゲームプレイと、セットにならねばならない。ユーザーがつまらない所で引っ掛かるようでは、意図的な引っ掛かりである限界が上手く演出されない。そのためには、日々のデータ分析によってゲーム設計や表示を変える科学的アプローチが前提となる(「『走りながらマーケティングする』――データに支えられたソーシャルゲーム運営」参照)。ユーザー行動を科学的に分析しつつ、アイテムの有料無料の管理を徹底するのである。
ゲームに学ぶマネタイズ手法
フリーから有料販売を実現する方法として、「企業側のルールに顧客を巻き込む」という仮説を、筆者は考えている。ゲームアイテムのように、そもそも価格が適正なのかよく分からない新しい財がある。価格について顧客に考え込ませる負担を与えないために、企業側からその判断基準を提供するのだ。
現代の消費者は、ネットにあふれる情報を見比べて、賢い買物をしなければならないという情報化社会のプレッシャーにさらされている。モノが少なく貧しい時代には、選択権があることが豊かさの象徴だったが、いまや選択権があることが苦痛になる。その心理的な負担がフリー経済の原因ならば、独自ルールをもって選択権を企業側に持ってくればよい。
ゲームがマネタイズに成功しているのは、このルール化がやりやすいからである。無料プレイの意味は、品質と価格についてのルールを知ってもらうことにある。プレミアムなサービスが欲しければ金を払うという判断基準を与えるための、フリーなのである。
今回はルール化の一例として、米国ソーシャルゲームに見られる「限界の演出」を取り上げたが、これが唯一の方法ではなく、ほかにも可能性があると考えている。この点については、また別の回で述べたい。
著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)
公式Webサイト:Nojima's Web site
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