前年モデルに何か新しい機能をプラスする、もしくは大幅なデザイン変更を行って注目を集める―それがこれまでの“最新家電”のあり方。ところが、“引き算+α”のものづくりを始めたメーカーがあります。単なる多機能・高機能化でなく、独自の技術を駆使した“ユーザー視点の家電づくり”を目指す三菱電機のマーケティング戦略、気になります。(三菱の家電戦略~Vol.1)
高感度の人感センサーが本体の側面についていて、調理中に人がそばにいないことを察知すると「揚げ物調理中は安全のため、そばを離れないでください」などと音声ナビで知らせてくれる仕組みになっています。使う人に応じて音量・話の速度の調整も可能です。
先に述べた「ナンバーナビ」は、両親のために設置したIHクッキングヒーターの使い方について、離れたところに住む娘や息子が電話口で説明する際を想定して考え出されたものだとのことですが、こうした説明のしやすさは、販売店の担当者が「こんなに簡単ですよ」とアピールする際にもきっと役立つのではないかなと思います。
デザイン性と味とを両立させた炊飯器
最後に、8月1日に発売されたばかりのIHジャー炊飯器「炭炊釜」の新製品についても着目してみましょう。
三菱の炊飯器といえば、10万円という高価格の炊飯器の先駆けとなった「本炭釜」や、蒸気が出ない安全性とスクエアなデザインで評判となった「蒸気レスIH」がよく知られていますが、「炭炊釜」のシリーズは、最高級の炊飯器の下をいく“ミドルクラス”といわれる価格帯のもの。昨年モデルまでは、本炭釜には採用していなかった『圧力IH』の炊飯方式を採用し、三菱ならではの吸水方法「可変超音波吸水」などとの合わせ技で、好みの食感の炊き分けをするなど、独自の立ち位置にいた炊飯器でした。
ところが、ニューモデルでは圧力炊飯をやめ、デザインも一新。「蒸気レスIH」を思わせるスクエアな形にしたうえに、奥行を20%もコンパクトにしています。
圧力炊きをやめ、コンパクトでシンプルなデザインに変更した「引き算」の炊飯器ですが、これはユーザーからの要望が多かった「キッチンのスライド棚にもすっきり収納できるもの」「オープンキッチンにもマッチするデザインのもの」という声を具現化した結果なのですよね。
ただし、機能を省いてシンプル設計にしたわけではなく、高火力の連続沸騰を実現させるために、吹きあがるおねばをキャッチする「カートリッジ」部分の構造を全く新しいものに変えています。蒸気レスではないけれど、本体のデザイン性とごはんのおいしさの両立を実現。コンパクトでごはんをよそいやすい炊飯器になっていて、価格も「本炭釜」や「蒸気レスIH」よりも抑えられているという点で、ユーザーにとって、とても魅力のあるものになっています。
“引き算+α”は明確なターゲット設定があればこそ
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2010.10.02
2010.10.12
株式会社神原サリー事務所 代表取締役/顧客視点アドバイザー
新聞社勤務を経て、フリーランス・ライターに転身。マーケティング会社での企画・広報などを兼務した後、顧客視点アドバイザー&家電コンシェルジュとして独立し、2008年に株式会社神原サリー事務所を設立。「企業の思いを生活者に伝え、生活者の願いを企業に伝える」ことをモットーに顧客視点でのマーケティングを提案している。