前年モデルに何か新しい機能をプラスする、もしくは大幅なデザイン変更を行って注目を集める―それがこれまでの“最新家電”のあり方。ところが、“引き算+α”のものづくりを始めたメーカーがあります。単なる多機能・高機能化でなく、独自の技術を駆使した“ユーザー視点の家電づくり”を目指す三菱電機のマーケティング戦略、気になります。(三菱の家電戦略~Vol.1)
今年度の除湿乾燥機の新製品の発売は各社とも4月中だった中、三菱は5月の連休明けにずれ込んでしまって最後発となったけれど、加速的に売り上げが伸びて遅れを取り戻し、人気商品になったとのこと。“部屋干し対応”という明確なターゲットに加え、機能をしぼったことで前年モデルよりも2~3万円下げることが可能になり、それが消費者の購入を後押しする結果になったのではないでしょうか。
ターゲットをシルバー層に絞った“らく楽IH”
続いて注目したいのが、今年11月に発売予定のIHクッキングヒーター「らく楽IH」。昨今のIHクッキングヒーターは、3つのコンロのすべてがIHとなった「3口IH」という高級タイプもしくは手前2つがIHで、奥の熱源はラジエントヒーターという「2口IH+RH」の普及タイプという2極化が進んでいます。
ところが、この「らく楽IH」は幅60センチのトッププレート内に、2つのIHのみを配置した全く新しい形。三菱電機では「海苔をあぶったり、餅を焼いたり、日本人の暮らしにはラジエントヒーターが欠かせない」と強調してきたのに、それをあえて取り去り、シンプルにしています。
では、なぜこんな引き算をしたのでしょう?
それはターゲットをシルバー層に絞ったから。火を使わないので衣類に燃え移るなどの心配がなく、室内の空気もクリーンに保つIHクッキングヒーターは高齢者向けの調理機器として注目度が高く、離れて暮らす両親のために子どもたちがリフォームなどを勧めるという声も多く聞かれます。
けれども、その一方でボタンが多く多機能になったIHクッキングヒーターでは、使いこなせるかどうか不安なために、なかなか踏み切れないという声があるのも事実。そうしたシルバー層への新たなコンセプトをもったIHとして「2口IH」を登場させたといいます。
IH部分には直径25センチの大きなオレンジサークルを描き、鍋を置く位置が直感的にわかるようにし、鍋と操作部分を従来よりも5センチ離す設計にして、安心して操作ができるようになっています。鍋の位置が少し奥に移動したために、片手鍋などを置いて使用する際にも、取っ手部分がトップテーブルからはみ出しにくくなって、何かの拍子に取っ手がひっかかって鍋をひっくり返す…などの心配もありません。
次に、シルバー層のユーザーに向けての「プラスα」を見てみましょう。操作ボタンを従来の1.8倍にしたり、電源=1、入・切=2、火力=3という番号を表示し、1→2→3の順番でボタンを押すだけで、操作ができる「ナンバーナビ」を採用したところもわかりやすいですが、何といっても秀逸なのは『見まもりセンサーと音声ナビ』がついていることでしょう。
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2010.10.02
2010.10.12
株式会社神原サリー事務所 代表取締役/顧客視点アドバイザー
新聞社勤務を経て、フリーランス・ライターに転身。マーケティング会社での企画・広報などを兼務した後、顧客視点アドバイザー&家電コンシェルジュとして独立し、2008年に株式会社神原サリー事務所を設立。「企業の思いを生活者に伝え、生活者の願いを企業に伝える」ことをモットーに顧客視点でのマーケティングを提案している。