人財の離職と根付きの問題<3> 安すれば鈍する

2007.09.19

組織・人材

人財の離職と根付きの問題<3> 安すれば鈍する

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

組織におけるヒトを考える場合、離職(流動)も問題ですが、その根付き(定着)も問題です。“よい根付き”と“悪い根付き”の分水嶺はどこに?

そしてその「競」を適切・適度に活性化するために、「覚」が要る。
「覚」とは、自覚、すなわち「自らを覚る」ことです。

経営・組織側は、事業上の哲学・意志を明確に自覚し、メッセージを発しなくてはなりません。
個々の働き手は、その哲学・意志・メッセージに対し、
自分の価値観や想いとどうすり合わせ、共有していくかを自覚せねばなりません。

結局、ヒトが悪い根付きをしたり、逆に離散したりするのは、
“安”のみ、“競”のみで、“覚”が欠落しているがゆえの結果であるように思います。

公務員のすべてを非難するわけではありませんが、
公務員という職種は、本来的に、組織に保身的・依存的に悪く根付いてしまう傾向性をはらんでいます。
なぜなら、絶対的な“安”(国からの雇用保障)に守られ、職場には“競”もなければ、
「良心に基づく公僕」であるといった“覚”も希薄化しているからです。

また、その逆の振り子として、ヒトを動かすのに競争原理を持ち込んだ民間企業もさえません。
私は、いくつかの企業で、成果主義導入における精巧な評価処遇システムをみてきました。
それらシステムは、実に、綿密に設計されています。
ジョブの分解のしかたと係数処理の方法、評価ポイントの区分けとレベル毎の記述、
原資の配分表、考課者の留意項目、等々。

しかし、こうした制度を「設計屋さん」にいくら精密に組んでもらったところで、
所詮、それを使いこなす労と使の双方で、「なんのため」という“覚”がなければ、
「立派な箱をつくって、魂入らず」です。
“競”をあおるだけの制度は機能しないことの証となりました。

簡潔にまとめると、
“安”のみでは、ヒトは“鈍”する。
“競”だけでは、ヒトは“耗”する。
しかし、根底に“覚”があれば、ヒトは“鋭”となり、“活”する。
そして、ヒトはその組織によく根付く。  ・・・・ということでしょうか。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

最後に、IBMの伝説的な経営者であるトーマス・ワトソン・Jr.の言葉を紹介しましょう。
彼はIBMに必要な人財について、よく「野ガモ」の寓話を用いたといいます。
この寓話は、デンマークの哲学者キルケゴールが説く教訓です。

「ジーランドの海岸に、毎年秋、南に渡る野ガモの巨大な群れを見るのが好きな男がいた。
その男は親切心から、近くの池で野ガモたちに餌をやるようになった。
しばらくすると、一部のカモは南へ渡るのが面倒になり、
男の与える餌を食べてデンマークで冬を越した。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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