ユーザーとメーカーが協働でマス商品を企画・開発する。ありそうでなかった仕組みが『マス・コラボレーションモデル』。F1層を中心としたユーザーの感性とメーカーの技術力をネット上で融合し、モノづくりに活用する。新しいプラットフォームを目指すアゲハのモデルに迫る。
最終回 「ユーザー参加型のモノづくりが拓く未来」
■リサーチをかけロジックも詰めたつもりが
「バッグって、どうやって作られてるんだろう? そんなことさえ想像できないまったくゼロからのスタートでした」
ネットで『バッグ&工場』などと検索してみたものの業界の全体構造はまったく掴めない。電話帳を繰って電話をかけてみても、最初の間は頓珍漢な質問を繰り返すばかり。
「ほとんどまともに相手してもらえませんでした。結局、友人の紹介の紹介の紹介……で最初の鞄職人さんに出会うことができましたが、『え? あんた、こんなに若いの?』と言われ、とても場違いな感じでした」
起業に必要なエレメントはいくつもあるが、当初カギとなったのが、カスタマイズされた商品を実際に作ってくれる職人さんの確保だ。そうした職人さんに対しては、そもそもコンタクトを取ること自体が難題だった。
「鞄業界は、分業化が進んでいて、鞄一つ作るだけでも、裁断職人・法制職人・金型職人・生地屋問屋・金具問屋などとやり取りしなければなりません。職人さんたちに『かわいい』という感性を伝えるのは大変で、彼らのコトバに翻訳して、納得できるようなモノをつくれるようになるまでとても苦労しました」
ただし、そこでめげないのが木下氏の強さなのだろう。粘り強く話を聞き出し、まずバッグ作りに必要な仕様書の書き方をマスターする。一見気難しそうに見えて職人かたぎな人たちだからこそ、木下氏がぶつけるストレートな思いが通じたのだろう。
「モノを作って売る。このプロセスに一年ぐらい時間をかけたことは遠回りのようでいて、自分にとってすばらしい体験になったと思っています。職人さんたちや小売店さん・卸業者さんとのやり取りを通じて、メーカーとしての心構えを固めることができましたから。それに、モノづくりの現場は、新鮮な驚きと感動に満ちていました。ファッションが大好きな女の子と、モノづくりのプロである職人さんを繋ぐ役割を果たしたい、と思いを強くしました。事業計画書をパソコンで練り上げるのと、実際に事業を回していくのではまったく次元が違うんですね」
すでに事業を営んでいる経営者からすれば、当たり前ではないかと思われることも、バイト以外には社会人体験さえなかった女子大生には新鮮で貴重な経験となる。そうした経験を一つ一つ、きっちりと自分の糧として吸収していくどん欲さが何より大切なのだ。モノづくりに苦しむ中でビジネスについて極めて重要な気づきも得ている。
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FMO第31弾【株式会社アゲハ】
2010.02.12
2010.02.04
2010.01.28
2015.01.21