感嘆すべきファーストリテイリングの強固な成長戦略

2009.09.06

経営・マネジメント

感嘆すべきファーストリテイリングの強固な成長戦略

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

2010年までに売上高1兆円、経常利益1500億円達成の目標を既に発表していたファーストリテイリングが、新たにその10年後2020年に売上高5兆円、経常利益を1兆円を目標とすることを発表した。その背景には、徐々に形を明確にしてきた同社の成長戦略が見える。

「新商品開発」は、本来の意味は次々と新商品を既存市場に投入していく展開を意味するが、あえて広義にとらえてみたい。中核事業であるユニクロのブランドを活かしたり、それを補完したりするために別の事業や別のブランドを投入したりテコ入れしたりすることをこの象限に当てはめてみる。
まず、「g.u.(ジーユー)」ブランドだ。今年、990円ジーンズに代表されるように、価格全体をユニクロの2分の1~3分1に抑制するという、さらなる低価格路線でテコ入れした。この低価格商品の投入は、ファーストリテイリンググループに新たな顧客を呼び込むという効果以上に、新商品による顧客囲い込みの意味合いが強いといえるだろう。前述の「ファッション性の強化」はもう一方でどうしても価格の上昇がどこかでおさえられなくなるはずだ。じわじわと商品単価が上昇した時に、ユニクロの離反顧客をジーユーで救いとろいという展開であろう。
もう一つの新商品開発は「靴」だ。「FOOTPARK(フットパーク)」や「AIR・KICK(エアキック)」などを買収したが、イマイチグループ内での相乗効果が出ていなかった。それを今秋「ユニクロシューズ」を立ち上げるという。9月5日現在、詳細はまだ発表されていないが、中核であるユニクロブランドに引き込むことで事業をテコ入れしつつ、ユニクロ顧客に靴という新商品を提供しようとする動きであることは間違いない。
かつて柳井会長は「顧客に全身をユニクロでコーディネートさせようとは考えていない」と述べていたが、ファッション性を高め、靴までアイテムを増やしたことで、全身コーディネートさせる方針に転換したとも考えられる。

「狭義の多角化」は、今まで接点のなかった市場や顧客に、新しいものを売ろうというのだから当然リスクは一番高くなる。ファーストリテイリングで考えれば、2007年12月に完全子会社化した婦人服専門チェーンの「キャビン」の展開はそれにあたるだろう。「ZAZIE(ザジ)」「 enracine(アンラシーネ)」 などのブランドを展開しているが、今まではファーストリテイリングのグループ内での相乗効果がうまく発揮できていなかったといえるだろう。そこで、テコ入れ策として、ユニクロと生産拠点や素材を一部共通化した。それによって商品の平均単価を20~30%下げることに成功したという。また、10月2日にオープンする銀座のユニクロ旗艦店にザジ、アランシーネの両ブランドの店舗も開設し販売拠点も強化する。
ファーストリテイリングは今までH&Mやフォエバー21などのファストファッションと一線を画していた。しかし、この動きはユニクロという中核事業の生産設備や素材を活かした「生産シナジー」で、ファストファッションへの狭義の多角化に乗り出したと解釈することもできるだろう。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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