さようなら、Mr.スポック!新しい経済学「行動ファイナンス」とは?(1)

2009.05.12

仕事術

さようなら、Mr.スポック!新しい経済学「行動ファイナンス」とは?(1)

ITmedia ビジネスオンライン
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「行動ファイナンス」の意味を知っている人はどのくらいいるのだろうか。筆者の森田氏も詳しくは知らなかったが、『行動ファイナンスの実践』(ダイヤモンド社)を読み、「これは儲かる!」と思ったという。その行動ファイナンスとは一体……? [森田徹,Business Media 誠]

 物語では、カーク船長の感情的で非論理的だが大胆な決断のおかげで幾多のピンチを逃れ、そのたびにMr.スポックは困惑するのだが、現在の経済学が置かれている状況はこれに近い。

不合理な人間が支配するマーケット
「スター・トレック5~新たなる未知へ~」(カーク船長〈左〉とMr.スポック〈右〉

 現在の経済学は、Mr.スポックのような論理的かつ天才的なバルカン人、ルネサンス期の万能人のような「合理的経済人」が市場参加者の前提になっている。

 合理的経済人は、自分の効用(あるものを消費したときに得られる満足感を数値化したもの)を正確に知り、その中でスーパーコンピュータでもまず無理な複数の財の最適化問題を解き、最も合理的な購買行動あるいは貯蓄行動を起こすことになっている。

 個々の経済主体が非合理でも、全体として長期的に見れば合理的でまるで経済人が振る舞ったように見えるといった説明がされることも多いが、実証的には怪しすぎる説明(というか言い訳)と言わざるを得ない。

 先ほどの金融工学もゲーム理論も、基本的にはこの合理的経済人の枠組みの中で語られている学問だから、非常に限定されたケースでしか役に立たず、しばしば現実と非常に乖離(かいり)したモデルを提示する(このコラムの初回で紹介した為替における一物一価の法則とPPP(ある国である価格で買える商品が他国ならいくらで買えるかを示す交換レート)などその典型だろう)。

 それを認知心理学の方法論(実験経済学)を借りて、現在の経済学を部分修正し、モデル的な整合性を保とうとするのが行動ファイナンスである。代表的経済人の地位をMr.スポックからカーク船長に取り戻す、壮大で途方もない試みだ。

 しかし、ここで得られた知見というのが、経済学者も我々投資家も、しばしば頭を悩ませる“効率的市場仮説”の機能不全、あるいは理論的な根拠を持たないマーケットにおける経験則(アノマリー)を部分的ながらも非常にうまく説明するのだ。

行動ファイナンスを“かじる”

 とはいえ、行動ファイナンスは実証重視の学問なので個々の知見がバラバラに観測されているに過ぎず、既存の経済学を発展させ整合的に説明する“それっぽい”モデルというのがプロスペクト理論くらいしかない。

 というわけで、以下には英語版のWikipediaを抄訳した主なトピックを掲載しておくので、これを見ながらいくつかの知見を“かじって”みよう(可能な限り日本語文献へのリンクを貼った)。

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