音楽配信事業とよく似た構造を持つ市場でありながら、なかなか普及が進まない電子書籍事業。普及するためには何が大事なのか。電子書籍の妥当な価格や望ましい端末の姿、ファイル形式を検討し、電子書籍の未来を考える。 [森田徹,Business Media 誠]
合法配信をやるならば、既存のファイル形式に何かしらの著作権保護技術を上乗せする形がスマートだろう。欲を言えば、ここでも独自技術を使うより、普及しているAdobe Readerでも読めるAdobe eBook形式などを使う方が廃れる心配がなくてユーザーとしては安心なのだが。
さらに当時特有の欠点もある。iPodは2001年のデビュー当時からギガバイト単位のHDDを搭載していたのに(その後、NAND型フラッシュメモリーの登場で容量はさらに増加した)、これら端末が128MBほどのメモリースティックやSDカードを抜き差しさせるようなカセット式の思考形態から脱せなかったのも普及に至らなかった要因の1つだろう。
最後にiTunesに相当するような管理ソフトが存在しなかったことも普及に至らなかった原因の1つだ。もちろん、Appleはソフト・ハードの両方を手がける希有な企業であるからこそ、iTunesを開発できたということもある。しかし、PDFや画像詰めZIP/RARファイルを管理する電子書籍のフリーソフトの中には、UIの完成度が非常に高いものもある。個人が開発できるようなUIならば、日本を代表する電機メーカーであれば実装できるような気がするのだが、それは筆者の高望みなのだろうか。
以上の議論を踏まえて、音楽事業で示した表に電子書籍市場の現状を対応させると以下のようになる。
背景
* コアMacユーザーの存在 → 有名巨大掲示板の住人たちの存在
* MP3の普及 → PDFや画像詰めZIP/RARファイルの普及
* P2Pの躍進による違法コピーの氾濫 → 幸か不幸か氾濫している
* 既存メディア(CD)からの移行技術の浸透 → ScanSnapなどのスキャナが普及
* iPod miniの登場(価格の低廉化) → 今後の課題
技術的仕様
* iTunesの高い完成度、分かりやすいUI → 開発陣に期待
* オープンなファイル・フォーマットへの対応 → 開発陣に期待
* HDD搭載による大容量化 → NANDの大容量化と低価格化
すでに電子書籍の市場環境は整っている。後は適切なファイル形式に対応し、適切な仕様を満たし、適切な管理ソフトやUIを持った素晴らしい端末の投入を待つばかりだ。
近くて遠い電子書籍の未来
前項では主観性の強い持論を展開してしまったがいかがだったろうか。「まず、電子書籍配信をもっと積極的にせよ」という意見もあるかもしれないが、デジタル音楽産業の発展から考えて、端末が普及しないと合法電子書籍配信にGOサインを出す出版社はそう多くないだろう。非合法のファイルが拾い上げられる可能性はあっても、既存のコンテンツを再生できる端末を投入しないとどうにもならないのである。
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電子書籍はキャズムを超えられるか?――iPodに学ぶ普及への道
2009.04.09
2009.04.07