音楽配信事業とよく似た構造を持つ市場でありながら、なかなか普及が進まない電子書籍事業。普及するためには何が大事なのか。電子書籍の妥当な価格や望ましい端末の姿、ファイル形式を検討し、電子書籍の未来を考える。 [森田徹,Business Media 誠]
デジタル音楽端末の成功と電子書籍端末の失敗
電子書籍の想定コストの問題がすっきりしたところで、端末とファイル形式の話に移ろう。ネットワーク化への移行に成功した事例として、ここでも音楽事業と対比させて、現状の電子書籍が流行らなかった理由とその改善点を筆者なりに考えてみた。
AppleのiTunes StoreとiPodがキャズム(※1)を超えた理由は色々と言われているが、筆者なりにまとめてみると以下のようになる。
(※1)キャズム……ハイテク製品のターゲット層を「イノベーター(革新的採用者)」(2.5%)、「アーリーアダプター(初期少数採用者)」(13.5%)、「アーリーマジョリティー(初期多数採用者)」(34%)、「レイトマジョリティ(後期多数採用者)」(34%)、「ラガード(伝統主義者)」(16%)に分けた時の、アーリーアダプターとアーリーマジョリティーの壁、マーケット層の断絶を「キャズム(溝)」と呼ぶ。
背景
* コアMacユーザーの存在
* MP3の普及
* P2Pの躍進による違法コピーの氾濫
* 既存メディア(CD)からの移行技術の浸透
* iPod miniの登場(価格の低廉化)
技術的仕様
* iTunesの高い完成度、分かりやすいUI(ユーザーインタフェース)
* オープンなファイル・フォーマットへの対応
* HDD搭載による大容量化
筆者はMac OS 8.6(1999年発表)の時からのMacユーザーなので、2001年秋のiPod登場時の市場状況やユーザーコミュニティーの反応をリアルタイムで見ていた。そのため、主観に満ちた語りになってしまう部分もあるがご容赦いただきたい。
iPodが登場したころは、NapsterなどのP2P技術を用いたファイル共有ソフトの存在もあり、MP3が爆発的に普及し始めていた。 Appleもスティーブ・ジョブズCEOのデジタルハブ構想(※2)のもと、2001年初頭に音楽再生・管理ソフトiTunesをリリースしている。iPodのコンセプトは「iTunes to go(持って歩けるiTunes)」でしかなかったので、第二のApple Newton(※3)に恋いこがれていたMacコミュニティーは(筆者も含めて)失望したものだ。しかし、iPodはMacコミュニティーを中心にアーリー・アダプターを醸成していき、iPod miniの登場でメインストリームに躍り出ることになった。そう、音楽市場では端末が先、合法配信は後だったのである。
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電子書籍はキャズムを超えられるか?――iPodに学ぶ普及への道
2009.04.09
2009.04.07