2004年、世界一多くのビールを集める店としてギネスから認定されたデリリウムカフェ。その記念すべきアジア第一号店は、事業責任者・菅原氏の緻密な戦略と大胆なアクションから生まれた。
▲今年9月、フェスティバルが始まる前からオーナーたちに誘われてビールを楽しむ菅原氏。
■お前ならビールのことがわかっているから
菅原氏の肩を叩いた人物こそが扉を開くエンジェル、デリリウムカフェの輸出担当マネジャーだった。彼は店でビール祭りのブースに詰めていたバイトたちを集めて打ち上げをやっていたのだ。あるバイトが菅原氏の姿を認め、しつこく社長に会わせろと3日間も朝から晩まで通い続けて来た変な日本人があそこで飲んでるという話になった。
「明後日、醸造所に来いというわけです。速攻で飛行機の便を変更しました。俺は日本一ついてる、これで人生変わる、間違いなくそう確信しました」
約束の日、列車を乗り間違えて約束の時間には間に合わなかったものの何とか醸造所にたどり着き、出されたビールを飲んだ瞬間にディールは成立する。
←【2007年12月、ブリュッセルでヒューグ醸造所のメンバーと。デリリウムの日本での発展を担うものとして、誓いの一杯を飲み干す場面。】
「それまでにたくさんの醸造所をまわっていましたから、醸造家との交渉のコツはきっちり心得ていたんです。これがまさに僕の必殺の武器ですね。何だかわかりますか」
答えは簡単なこと。ビールの飲み方である。出されたビールをいかにうまそうに飲むか。醸造家にとっては自分が精魂込めて作ったビールをおいしく飲んでくれる相手こそが、信頼できるビジネスパートナーなのだ。
「付け加えるなら、その醸造所で作っているビールを試飲したら、必ず次は『好きなビールを飲んでいいぞ、何にする?』と聞いてくる。ここが決定的なポイントで、そのとき頼むビール次第で向こうは『こいつは本当にビールがわかっている人間かどうか』を判断するんです」
ビジネスライクな商社のバイヤーではおそらく対応できない儀式といっていい。逆に本当にビールを愛している菅原氏のような人物にとっては、これほど楽なテストもない。
「向こうも東京に出店できることをとても喜んでくれました。そしてお前みたいにビールを深く理解しているパートナーなら、きっとうまくいくから、よしやろう、さあ飲もう、乾杯だって」
ベルギーの醸造家たちは極めて限られた世界に暮らしている。醸造家たちの間には緊密に張り巡らされたネットワークがある。だから菅原氏には会って話さえできれば取り引きできる勝算があったのだ。
「それまで輸入してきた取引先の醸造所に、僕がどんな人間なのかを問い合わせてもらえれば、きっと大丈夫だと。それぐらいの人間関係は築けていましたから」
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FMO第16弾【デリリウムカフェ】
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