ハピネスと企業価値の密接な関係

企業力に、「人」のもたらすパワーが問われる時代。従業員と顧客の「ダブル・ハピネス」が、企業価値に意味するものとは・・・。

もう何年も前のことになりますが、ディズニーの社外教育機関であるディズニー・インスティチュートの認定トレーナーの講演を聴く機会がありました。その際にとりわけ印象に残ったことは、「ロイヤルティ・プロフィット・チェーン」というコンセプトです。

同様なコンセプトは、「バリュー・プロフィット・チェーン」や「サービス・プロフィット・チェーン」という名前でも語られています。「顧客満足を得て、それを顧客ロイヤルティの向上、ひいては企業価値の向上につなげていくためには、まず、従業員満足、従業員ロイヤルティを獲得せねばならない」という考え方です。

これは、子育てに置き換えてみてもわかります。いつも虐められてばかりいる子供に、「人に優しくしなさい」といくら言い聞かせても無理なのと同じで、社内で、「感動を生むサービス」を体験していない従業員に、どうやってお客様の感動を生むサービスを創造することができるでしょうか。

「感動を生むサービス」を顧客に提供できる会社の社内には、上司と部下、同僚同士という関係性に関わらず、「感動を生むサービス」が日常的に溢れているはずです。それが会社の文化になっているからこそ、サービスの精神が根付き、感性が磨かれます。

ディズニーのトレーナーの話に戻りますが、講演の中で、もうひとつ、身につまされる言葉がありました。

「従業員ハピネスは、リーダーの責務」というものです。

ハッピーな従業員こそが、ハッピーな顧客をつくることができ、ハッピーな顧客がロイヤルな顧客に転じれば、企業価値の向上につながります。だとすると、顧客の心を動かすサービスが出来ないからといって、フロントラインの従業員を責めるのは間違っている。まず、そういったサービス体験が創造されるような環境をつくることをしていない企業リーダーこそが、自らの怠慢を恥じるべきなのだ、とこの言葉は厳しく指摘します。

アメリカの流通業界では、今、まさに、サービスを軸とした企業文化の育成に焦点を置き、めきめきと頭角を表してきている会社がたくさんあります。90年代中盤から2000年にかけての、「テクノロジー至上主義」の時代を超えて、ウェブ2.0の向こう側にある次世代ビジネスの形は、「ITのパワー×人のパワー」だというのが、私の持論です。

かつて、日本という国には、「日本国家」ならではの統一された文化があり、その文化があまりにも強力であったために、企業文化ということがあまり考えられてきませんでした。日本の高度成長期には、「日本国民」という共通のアイデンティティと価値観を持った人たちが一丸となって「国を豊かにする」という共通の目標に向かって一生懸命働いたからこそ、世界の人があっと驚くような成果を出すことができたのだと思います。

しかし、今日はどうでしょう。日本の市場も、職場も、グローバル化が進んでいます。古い世代と、新しい世代の価値観の衝突もあります。アメリカ同様に社会が多様化を迎える中で、企業が長期的な成長を目指し、顧客主導型市場において突出した地位を確立するためには、ヒューマン・キャピタルの見直しと、企業文化の育成に重きをおいた経営が急務であると、強く感じています。

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石塚 しのぶ

ダイナ・サーチ、インク 代表

ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。

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