奇跡を連発する出版社がある。年間8万冊、一日平均で200冊以上もの本が世に出る中、確実にスモールヒットさせているミシマ社だ。しかも同社は業界の常識を破り、取次を通さず本を流通させている。ミシマ社の一見型破りに見える逆転の発想を探る。
同じ著者でも編集者が変われば、でき上がる本はまったく違う趣を帯びるという。著者からすれば、三島氏との本作りは一種の知的格闘技であり、ワクワクするような体験となっているのではないだろうか。そんな本作りをできる編集者、だから三島氏の独立を著者たちは後押ししたのだろう。
←【ミシマ社2007年の発行本「アマチュア論。」】
逆さまデザインの装丁が目を引く。アマチュアだからこそ柔らかな心で、挑戦する心を失うなというメッセージの伝わる好著。
■本を見極めるミシマ社スタンダード
「作者の頭の中にあるものをいかに引っ張り出すか、なんて作業はどこまでいっても合理化も機械化もできるわけない。だから、その作業自体が、つまり編集がおもしろいわけです」
ミシマ社では一体どういう基準で本作りを進めているのだろうか。
「実はとても簡単で、基準は3つしかありません。唯一の内容であること、時間的普遍性があること、空間的にも普遍性があること。これだけです」
よくある二番煎じや二匹目のドジョウは絶対に狙わないのがミシマ社である。そうではなく、自分たちの本の後を追って誰かが真似してくれたら良い、これがミシマ社のスタンスである。
▲ブックフェアでの出展風景:お茶とおせんべいを用意し、畳みをしつらえたミシマ社のコーナーは、フェアで最高の人気スポットとなった。
「時間的には十年残る本であること。とにかく消費されるだけの本は絶対に作りたくない。一日平均で250冊も本が出版されている中で、残っていくのは本当におもしろい本だけです。10年なら80万冊もの新刊が世に出回る計算だけれど、その中で残る本を僕たちは作りたい。その気概は失いたくない」
そして翻訳可能であること。つまり国内だけで通用する内容の本は作りたくないというわけだ。海外の人からも関心を持ってもらえる普遍的な内容を持つ本を作る。それが最終的にはおもしろさにつながると考えているのだろう。
「たぶん、我々と同じような考え方をしている編集者はたくさんいるんです。でも、企業が存続していくためには、一定の売上を確保しなければなりません。そこでは効率的に本を作ることが求められる。効率とおもしろさの追求は、もしかしたらトレードオフの関係にあるのかもしれませんね」
誠実な作者ほど、そうした本作りに固有のメカニズムとその問題点を見抜いているのだろう。だからミシマ社のような編集ポリシーを歓迎するのではないか。ミシマ社を応援するのは書店の店員さんも同じである。
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FMO第13弾【株式会社ミシマ社】
2008.09.02
2008.08.26
2008.08.19
2008.08.12