奇跡を連発する出版社がある。年間8万冊、一日平均で200冊以上もの本が世に出る中、確実にスモールヒットさせているミシマ社だ。しかも同社は業界の常識を破り、取次を通さず本を流通させている。ミシマ社の一見型破りに見える逆転の発想を探る。
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内田樹氏の『街場の現代思想』は、
三島氏の編集者歴の中でも
一つのマイルストーンとなった作品。
■著者たちが押してくれた背中
「出版社を自分で創る。そう思った瞬間に悩みが全部吹っ飛んで、全身にパワーがみなぎってきた。それから後はあふれ出るようにアイデアが湧いて出てくる。汲めども汲めども、こんこんと水が湧き出てくるみたいな感じで」
結局その夜は、朝まで一睡もしなかったという。文字を書くのももどかしくなるぐらいの勢いで吹き出してくるアイデアを書き留めたメモには、現在のミシマ社の姿がすべて描かれていた。驚くべきことにたった一夜の間に三島氏は、創業すれば「行ける」という手応えまでも掴んでいたのだ。
「何の根拠もないんですよ、その朝の確信には。でも、小規模でスタートしたら、必ず何とかなるはずだと」
早速、その日から勉強がスタートした。編集は熟知している、営業の問題も二社を経験することで見えてきた。しかし経営についてはまったくの素人だ。出版社という企業組織をゼロから創りだし、運営していくためにはお金のことを筆頭に、知るべきこと、考えるべきことが山ほどある。
「びっくりするぐらい間抜けな話なんですけれど、会社がどうやって回っているのかなんて、それまでは気にしたことさえなかったんです。さすがに自分が作った本については原価がどれぐらいだとか、広告販促費にいくらかけたら最終的に利益はこれだけ残ったといった案配で大ざっぱには掴んでいました。でも、会社全体のお金の流れなんて考えてみたこともなかったから」
本を作れば経費は前払いですぐに清算しなければならない、にも関わらず回収は、取次を通せば半年も先になるのが出版業界のビジネスモデルだ。話を聞けば聞くほど、いかに自分が無茶なことをやろうとしているのかがわかったという。
「とんでもないチャレンジをするんだということが、日を追うごとにひしひしとわかってきました。営業の人たちも実は回収に労力のほとんどを取られていたんですね。そんな状況だから、売りに力が回らないのも当たり前だとも思いました。挫けそうになる気持ちの支えになったのが、相談させてもらった著者の方々からのエールだったんです」
独立を決めた三島氏は、何人かの著者に相談に行く。すると全員がまる判で押したように「それはいい」と後押ししてくれたのだ。
「ある先生なんか、独立しようと思うのですがと言った途端『それはいい。書きますよ』でした。ありがたかったです」
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FMO第13弾【株式会社ミシマ社】
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