来週水曜日、23日は「夏の土用丑の日」。日本列島の西の方は既に猛暑となっており、週明けには関東地方も梅雨明けする雰囲気がある。暑い夏を乗り切るため、鰻を食する人が多いが、そんな習慣を今年はちょっと変えてみようという提案だ。
よく知られた話であるが、「土用の丑の日」として、鰻を食するようになったのは、江戸時代・享保年間の発明家である平賀源内の功績によるものとされている。
暑い夏の間には口当りの良いものばかりが好まれ、脂やしつこさが嫌われて売り上げが落ちてしまう鰻屋の店主が知業を煮やし恵者と名高い源内に相談した。すると、源内は墨の色も鮮やかに、紙に「土用の丑の日」と記した。古来、丑の日には梅干し・瓜など「う」の付くものが食されていたが、この店の「うなぎを食すべし」と促したわけだ。源内の手によるその張り紙は、日本最古の広告コピーともされているが、そのおかげで鰻屋は大繁盛。以来、土用の丑の日には今日に至るまで、うなぎを食べる習慣が伝わっているというわけだ。
実際に、鰻にはビタミンB類が豊富に含まれているため、疲労回復、食欲増進食などの効果がある。平賀源内の慧眼と見るべきか、まぐれ当たりと考えるべきかは別として、夏バテ防止にうってつけなのは確かだ。
筆者も鰻には目がない。だがしかし、昨今の鰻にまつわる偽装事件には目を覆うものがある。「土用の丑の日」などとして、突出した販売のピークがあると、そこに便乗しようとする者も現れる。中国製を「愛知県三河一色産うなぎ蒲焼」と記した偽装も、土用を前に在庫を売りさばかんがためであったと伝えられている。
そうした不心得者に対する、鰻好きからのささやかな抵抗として、今年の夏はちょっと趣向を変えてみたい。夏にはなかなか食さないが、滋養が摂れるものはと考えた次第だ。
ご紹介したいのは「獣肉」である。フレンチでもジビエ(gibier)として人気が出てきている猟で捕った野生の禽獣の肉のことだ。猪・鹿・熊などなど。本来的には餌が豊富で種類によっては冬眠前にあたる秋が脂がのって食べ頃とされているが、まぁ、それを言うなら鰻も天然物なら、本来は夏ではなく産卵前が食べ頃。ここは一つ「土用」の選択肢の一つに加えることを主旨とご理解いただきたい。
前述の通り、フレンチとしての獣肉も人気の高まりから取り扱う店が増えてきた。しかし、「土用の丑の日」は日本の慣習の日だ。和風でいきたい。
動物を食することを憚りとしていた日本にも、長く続く獣肉の店がある。創業・享保三年(1718年)というから、今年280周年となる。平賀源内が生まれた1728のさらに10年前に店を開いた老舗である。国技館や東京江戸博物館のある両国。隅田川に架かる両国橋のたもとにある「ももんじや」。
メインは猪鍋。すき焼きにして食する。煮込めば煮込むほど柔らかくなるというその肉は、柔らかながらもしっかりした食べ応えを失わない。他にあっさりとした味わい鹿の刺身と竜田揚げ、滋味に溢れた熊汁などもいただける。
全体に少し濃いめの味付けだからか、肉の臭いなどは全く気にならない。特筆すべきは、食後、胃の腑の当りが熱くなり、身体に力が満ちてくることを実感できることである。「土用の丑の日」としては「う」の字は付かないものの、夏を乗り切れるように思う。
フレンチのジビエ人気とは裏腹に、獣肉料理の店は随分と少なくなってしまったようだが、インターネットなど探してみれば、各地にまだまだ残ってはいるようだ。
誰も彼もが「鰻」を求め、悪質業者につけ込まれるより、ちょっと発想を転換して、自分なりの夏を乗り切る滋養を摂る食べ物を探してみることをお勧めしたい。
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2008.07.22
2008.07.23
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。