2026.08.11
金融資産を増やせば、人生は豊かになるのか ――新NISA時代に考える「自分投資会社」という生き方
齋藤 秀樹
株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役 一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事
給与が上がったはずなのに、生活が楽になった実感はない。 給与明細を開けば、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税が差し引かれている。そこに食料品、光熱費、住宅費をはじめとする物価上昇が重なり、以前と同じように暮らしているだけでも、家計の余裕は失われていく。
市場価値。
こうした基準は、企業が人材を配置し、仕事の成果を評価するうえで一定の必要性を持つ。
しかし、特定の基準だけで人を見れば、その物差しに表れにくい価値が軽んじられる。
会議で素早く発言する人は評価されても、人の話を深く聴き、場の違和感をつかむ人は目立たない。
短期的に数字をつくる人は評価されても、長い時間をかけて顧客や仲間との信頼を育てる人の貢献は見えにくい。
人前で強く引っ張る人はリーダーとして認められても、他者の可能性を引き出し、静かに支える人は補助的な存在として扱われる。
素早く答えを出す人は優秀とされても、一つの問題を深く考え、見落とされていた本質に気づく人は、仕事が遅いと評価されることがある。
すると人は、自分の違いを価値ではなく欠点として見るようになる。
もっと話せなければならない。
もっと決断が速くなければならない。
もっと競争に強くなければならない。
もっと目立つ成果を出さなければならない。
社会が示す標準人材へ近づくために、自分を修正し続ける。
それを私たちは「自己投資」と呼んできたのかもしれない。
しかし、社会が求める人材像に自分を近づけるだけでは、自分自身に投資しているとは言い切れない。
それは、市場の期待に投資しているとも言えるからである。
自分投資は、自分を甘やかすことではない
自分の違いに価値がある。
自分らしさを大切にする。
自分の人生を生きる。
こうした言葉は美しい。
しかし、それだけでは現実を生きられない。
本人が価値だと思っていても、他者に必要とされなければ、仕事上の価値にはなりにくい。
静かに深く考える力があっても、その思考を提案や文章、問題解決の形にできなければ、周囲には伝わらない。
人の話を聴くことが得意でも、それによって相手の問題が整理され、信頼が生まれ、行動につながらなければ、社会的価値として認識されにくい。
独自の感性を持っていても、商品、サービス、表現、支援などの形に変えなければ、誰かに届けることはできない。
違いは、そのままでは可能性である。
他者や社会の必要と結びつき、相手に届く形へ変わったとき、初めて価値になる。
ここが、自分投資会社を理想論で終わらせないための重要な点である。
自分投資会社とは、好きなことだけをして生きるための概念ではない。
社会の評価をすべて拒絶する考え方でもない。
自分の固有性と社会の現実を直視し、その間に価値が生まれる場所をつくる経営である。
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株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役 一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事
富士通、SIベンダー等において人事・人材開発部門の担当および人材開発部門責任者、事業会社の経営企画部門、KPMGコンサルティングの人事コンサルタントを経て、人材/組織開発コンサルタント。
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