MVVアプローチとは、まずMVVを策定・明文化し、とくにミッションから将来的に必要な機能や役割を抽出します。そして、それらを具体的な業務課題へと落とし込み、ミニプロジェクト方式で解決を進めていくアプローチです。 調達購買改革において、このMVVアプローチは現在において非常に有効な進め方です。
従来、私は調達方針や調達戦略というものに対して、どちらかというと否定的でした。
「公平公正な取引」や「開かれた取引機会」といった美辞麗句的な言葉、あるいは「3年で◯%のコスト削減」といった定量目標は、あってもなくても大差がなく、部門としての真のゴールとは言えないと感じていたからです。結果として、どの会社も似たような方針・戦略となり、調達購買部門としての差別化にはつながらない、そう考えていました。
一方で、品目・品種別に策定するカテゴリー戦略は、個別最適な調達購買を実現するうえで極めて重要なものです。調達戦略は、このような具体的なカテゴリーごとに作成されるべきものだと考えて
いました。
しかし、2017~2018年頃からでしょうか。
優れた調達購買部門には、目指すべきゴールとしてのMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が明確に存在していることに気づきました。
何がミッションで何がビジョンかといった厳密な定義は本質ではありません。調達購買部門として目指すゴールや、果たすべき役割・機能を部門内で共有するための「共通の価値観」、それがMVVなのだと思います。企業によっては、これをフィロソフィーや中期経営計画という形で共有している場合もありますが、いずれにせよ、このような価値観の共有が重要であることが分かってきました。
これまで調達購買部門の改革は、他の業務改善プロジェクトと同様に、現状調査 → 課題抽出 → ToBe検討 → 施策への落とし込み → 施策実行といったステップで進められてきました。ただ、このアプローチには限界があります。なぜなら、どうしても「現状の課題をどう解決するか」に主眼が置かれてしまうからです。
何度も申し上げている通り、調達購買部門を取り巻く事業環境の変化は、近年とくに激しくなっています。人件費や市況の高騰、地政学リスクや政情不安による供給リスクの顕在化、構造的にサプライヤ優位な時代の到来、さらにはGHG排出量管理や人権デューデリジェンスなど、サプライチェーンにおけるサステナビリティへの対応強化など、枚挙にいとまがありません。
このような時代においては、新たな課題や業務が次々と生まれます。
それに対し、課題解決型のアプローチだけでは、もはや対応しきれません。今後は、MVVアプローチによる部門改革が不可欠になってくるのです。
MVVアプローチとは、まずMVVを策定・明文化し、とくにミッションから将来的に必要な機能や役割を抽出します。そして、それらを具体的な業務課題へと落とし込み、ミニプロジェクト方式で解決を進めていくアプローチです。
MVV策定における最大のポイントは「自立的な改革推進」にあります。
そのためには、一部のメンバーだけでMVVを作るのではなく、若手を含めた多くのメンバーで議論し、進むべき方向を自分事として捉えていくことが重要です。
その際の進め方のポイントを、ここでは2点ほど挙げておきます。
1点目は、インプット情報の収集です。
インプット情報とは、社内マネジメントや事業部門のユーザー、そしてサプライヤの声です。私はこれらをVoC(Voice of Customer)、VoS(Voice of Supplier)と呼んでいますが、調達購買部門に対する期待や不満を改めてヒアリングすると、驚くほど辛辣な意見が出てきます。
こうした声を踏まえ、「自分たちはどうあるべきか」を多くのメンバーで議論することは、非常に有効です。
もう1点は、ワークショップの実施です。
ワークショップは自由闊達な議論の場ですが、可能であれば合宿形式で複数回実施することをお勧めします。それにより、少なくとも参加者の間で共通の課題認識と方向性を持つことができます。私たちが支援する際には、3~4回程度のセッションに分け、問題意識の共有 → ミッションの明確化 → ビジョン・バリューの明文化 → 業務課題の抽出 → 施策実行計画の策定といった流れで、MVV作成と全体課題の整理を進めていきます。
全体課題の解決を推進するにあたっては、部門全体の改革として捉えていくための仕掛けが欠かせません。具体的には、課題ごとにミニプロジェクトチームを立ち上げ、プロジェクトを自分事として進めるメンバーを広げていくこと。また、部門内外への広報活動や顧客満足度調査の実施なども、非常に有効な手法となります。
MVVアプローチによる改革は、単なる業務改革ではありません。
これは部門改革であり、組織改革であり、意識改革でもあります。皆で作成した自分たちのゴールを自分事として捉え、改革を推進していくアプローチだからです。
これまでも多くの企業で、MVV策定と業務課題解決を組み合わせた部門改革のご支援をしてきましたが、ビジョンとして明文化された内容は、私の想定を超えるレベルのものになるケースが少なくありません。
MVVアプローチは、このようなドラスチックな部門改革を進めるうえで、非常に有効な手法だと感じています。先行きが見えない時代だからこそ、このような逆転の発想による改革が、今まさに求められているのではないでしょうか。
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2009.02.10
2015.01.26
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。
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