日本の高齢者の、住まいに関する意識に変化の兆し。

2024.05.27

ライフ・ソーシャル

日本の高齢者の、住まいに関する意識に変化の兆し。

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期に住み替えるアメリカ、スウェーデンと違って、日本の高齢者は我慢して住み続けてきたが・・・。

住宅の種類を比較すると(第5回調査)、日本は「一戸建て住宅」が89.6%で、アメリカ(65.5%)、ドイツ(43.6%)、スウェーデン(36.1%)に比べて顕著に多いことが分かります。マンションなどの共同住宅は6.4%で、アメリカ(24.1%)、ドイツ(31.4%)、スウェーデン(54.5%)よりかなり少なくなっています。

また、「現在、住んでいる住宅への入居時期」は、1949年以前(調査当時より60年以上前)が25%と突出しており、総合すれば、身体的な衰えが進んでも、周辺環境が変わっても、昔に建てた、あるいは相続した一戸建てに頑張って住み続けている人が多いということで、これが住まいに対する不満につながっているのだろうと考えられます。

一方、アメリカやスウェーデンでは、高齢期の住み替えが進んでいる様子がうかがえます。「65歳以上で60歳以降に住居移動をした人の割合」は、アメリカが34%、スウェーデンが32%となりました。「75歳以上で70歳以降に住居移動をした人の割合」でも、アメリカ、スウェーデンともに27%で、日本の14%(60歳以降)、9%(70歳以降)を大きく上回っています。

拙著「なが生きしたけりゃ居場所が9割」(みらいパブリッシング)にも詳しく書きましたが、住宅や暮らす環境は、高齢期の心身の健康に大きな影響を与えることが分かっています。

高齢期には通勤や通学がなくなり、電車を使う頻度も減るので、「駅近」や「学区」といった価値は低下します。一方で、スーパーや医療機関、銀行、役所といった施設が近くにあることや、交流拠点が近いことはとても重要なポイントになります。家の中の段差や温度管理にも気を付けなければなりません。

身体的な状況もライフスタイルも、現役時代とは大きく変わるのに、同じ家や環境で暮らしていると、不安や不便が顕在化し、さまざまな危険やストレスが生じるのは当然といえば当然です。

その意味では、「家への不満を我慢して暮らす」状態から、「今の家に問題がある」という意識に変わってきたことは前向きに捉えてもいいでしょう。そして、これが今後、「住み替え」という具体的な行動になっていくのかどうか。「リバース60」という高齢期の住み替えを支援する国の制度の利用者も右肩上がりになっているようですが、日本でも「高齢期の住み替え」が広がっていくのかどうかに注目したいと思います。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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