我々世代が昔から感じていた、「特別なハレの場としての百貨店」というイメージは、もはやなくなってしまうのだろうか。
コロナ前にも好調期はあったが、その頃は中国人を中心とした多くの観光客が、爆買いを繰り返し、ある種の特需が起きていた。しかし、今回の好決算は、それほど多くの訪日客でにぎわったことが原因ではない。また、日本人の来店者数も、コロナ前に完全に戻ってはいない。では誰が支えているのだろうか。
ここのところの好調っぷりを支えているのは、「外商」だという。
つまり、富裕層とのビジネスだ。コロナ禍でも日本の富裕層(野村総合研究所が定義する富裕層は金融資産1億円以上)は、確実に増加しているという。コロナ禍で、収入格差はさらに広がったと言われ、外国人の訪日数が減り、一般層の来店数も伸びないとなれば、生き残りをかけた戦略は、これしかないだろう。
外商部門は、まさにこの富裕層を相手にビジネスをしているのだが、絵画や芸術品から、ファッションのトップブランドまで幅広く商材を持つ百貨店にとっては、本来、得意中の得意なビジネスだ。来店数が2~3割減ろうとも、売価が倍になればいいのだ。一億総中流時代での、「ひとつ上の暮らし」提案から、富裕層への本物の「一流の暮らし」の提案ができるのが、いまの百貨店外商ということなのだろう。
三越伊勢丹HDの今回の好決算は、富裕層対象ビジネスが、成功への第一歩を踏み出せたことを物語っている。この先は、間違いなく、この成功を足掛かりに、富裕層ターゲットのビジネスへと舵をきっていくのだろう。
とはいえ、富裕層相手のビジネスと言っても簡単なことではない。客の持つ高尚でストイックなニーズに応えながら、独自の商品を提供しなければならない。
そして何より必要なことは、顧客層の拡大、つまり、若年層(といっても50歳以下)の取り込みだろう。往年の百貨店外商の顧客は、日本の資産家の多くがそうであるように、高齢者が多く、その子ども世代への拡大が何よりマストだ。
時代に合わないと言われて久しい百貨店だが、本来持つ自分たちのコンテンツを見直せば、自然にたどりつく戦略と言えるのかもしれない。目先にとらわれず、これからも、百貨店にしかできない提案を継続し、日本の百貨店が、世界のなかでも注目される存在になってほしいものだ。
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