​人口減とビジネスモデル資本主義の終わり

2023.03.03

経営・マネジメント

​人口減とビジネスモデル資本主義の終わり

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/20世紀はビジネスモデル資本主義、つまり、製造販売ノウハウを創り、バイトやフランチャイジーを指示管理することで、全国展開チェーンとしての知名度と価格訴求力を確立確保し、繁栄拡大を謳歌してきた。だが、連中にお客さま気分でぶら下がられても、組織が重くなるだけで、その調整コストと管理リスクで利益が喰い潰されてしまう。/

近代の経営は、18世紀は発明資本主義、19世紀は金融資本主義、そして、20世紀はビジネスモデル資本主義だった。つまり、フォードからホテル、ファストフード、コンビニまで、本社が製造販売ノウハウを創り、働きたくても製造や販売のノウハウの無い人々を指示管理することで、全国展開チェーンとしてのナショナルブランドの知名度と価格訴求力を確立確保し、従来のローカル店を廃業に追い込むゼロサム・マーケティングによって、見せかけの繁栄拡大を謳歌してきた。

しかし、きょうび、いくら確実な製造販売ノウハウがあっても、それを使って働きたい、儲けたいという労働者やフランチャイジーがいない。契約のしばりがやたら厳しいのが嫌われ、また、ノウハウや利益率がすでに硬直完成しすぎていて、将来的なシフトアップを期待できない。そして、人口減の市場縮小の中で差別化も図れない均質的な大量生産チェーンそのものが落ち目になっているから。

既存店でも、もはや以前のように本社中間管理職がたまに現場に赴いて、マニュアルどおりに運営されているかどうか指示管理するだけでは済まない。こんな時代に応募してくるバイトやフランチャイジーは、ワケありだらけで、かえってとんでもないことをやらかす。そもそも人手不足で、本来のマニュアル水準の労働力が確保されていないから、マニュアルどおりに実行することなど不可能。ホテルや病院、介護施設などはフロアの閉鎖、飲食店などは営業時間の短縮、メニューの削減などでしのいでいるが、不祥事や不適合のトラブルの始末対応もあって、残った人員の負担は増える一方。それで、さらに人が辞め、いよいよ悪循環。

とりあえずの対策としては、チェーン規模を縮小し、本社のホワイトカラー連中が現場で直接に働けばいい。とくに日本は、やたら働いているのに、利益差分を生まないどころか、むしろ現場の利益を喰い潰している。それは、売上が製造販売現場の数の単純掛算であるのに対して、社内の調整連絡コストは企業規模で幾何級数的に増大するため。資料作成、会議調整、そして派閥争いの消耗戦。規模と本社を縮減して、これらを止めれば、組織全体の利益率はむしろ上がる。

とはいえ、いくら規模と本社を縮減したところで、ビジネスモデルを資本として稼ぐ、というビジネスモデルそのものが限界にきている。人手不足を自販機やロボットに変えたところで、人口減の市場縮小を前には、なんの意味もなさない。ようするに、人がやろうと、ロボットがやろうと、同じビジネスモデルを全国チェーンで均一展開して、その現場の数の掛算で商売しよう、という経営スタイルそのものが成り立たなくなってきている。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

フォロー フォローして純丘曜彰 教授博士の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。