シャロウマーケティングからナロウマーケティングへ

2022.11.13

営業・マーケティング

シャロウマーケティングからナロウマーケティングへ

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/20年来、IT産業だ、と言って大騒ぎし急成長したが、しょせん前世紀的な大衆消費社会のパラダイムの中の存在だった。もはや大衆に購買力は無く、企業も商品を大量に供給できない。安定した収入で家を持て、結婚して、子供がいて、それらそれぞれに高度な教育を施せるクラスは、急激に絞り込まれていっている。ITを使う以上、いかにして彼らにリーチするか、が、ナロウマーケティングの課題だ。/

そもそも、テレビのようなマスメディアはもちろん、新規に見えるだけのIT産業にしても、いまだに中の下の大衆に薄く広くターゲットを合わせたシャロウマーケティングの結果、ほんとうに購買力を残しているエクスクルーシブな顧客層が近づかなくなってきている。検索をかけても、ポータルサイトを見ても、自分たちとは縁の無い下世話な人々のあれこればかり。その大声にかき消され、自分たちがほんとうに必要としているモノ、必要としている情報にはなかなか到達できない。

もともと、いまやなにもかも供給量が限られてきている。それを大衆に宣伝したところで、連中に購買力は無いし、企業側も売る商品を準備できない。それでも、大衆IT産業は、救い反転の見込みも無く、ただ没落していくだけの働きバチたちの、麻薬的なガス抜き憂さ晴らしの痛み止め、緩和ケアとしては、今後もしばらくはかえって人気を博するだろう。だが、広告出稿が激減し、ターゲットの大衆も消滅してしまう以上、将来性は無い。

良くも悪くも、時代は囲い込みにシフトしている。安定した収入で家を持て、結婚して、子供がいて、それらそれぞれに高度な教育を施せるクラスは、急激に絞り込まれていっている。彼らは、むしろ現実の危機感を忘却させ、目先の逸楽的消費ばかりを促す麻薬的な大衆ITメディアには近づかない。それどころか、個人としての個性、将来性を奪うものとして、はっきりと背を向け、家族ともども忌み嫌っている。新しい技術は、新しい革袋へ。ITを使う以上、いかにして彼らにリーチして信頼関係を築くか、が、ナロウマーケティングの課題だ。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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