/金利がゼロ、というのは、たんに経済の問題ではない。無駄遣いをせず、まじめにコツコツと働いて貯金し、夫婦で、家族で力を合わせ、いつかもっと大きな夢をかなえる、という未来の希望、日本人らしい堅実な生き方の美徳、モラリティそのものを、日銀は、この30年にも渡って徹底的に破壊し尽くした。/
そもそも、家を建てる、建てない、という以前に、若手が結婚できない。家族を作れない。中曽根以来の経営者優遇とバブルの埋め合わせのために、労働分配率、正社員雇用が削り取られ、男も女も、家族を養い、子供を育てるに足るだけの収入を得ていない。独身の若手でも明日の生活再生産がぎりぎり。年齢がいけば、体力気力も落ち、就業機会が減って、ゆっくりと経済的な「死」へ向かっていくのがわかっている。そんな経済的に死にゆく相手と、だれがたがいに結婚しようとするだろうか。かくして、インセルに追いやられた連中は、アニメとアイドルとストロング缶で、また、インセルたちに絶望したステイシーたちはパパ活やホスト狂いで、憂さ晴らしの刹那的な生き方に若さを費やし、いよいよ自分たちで自分たちの首を絞める。こうして、日本は、人口が減り続け、経済も縮小を続け、底なしの泥沼に落ちていっている。
金利がゼロ、というのは、たんに経済の問題ではない。無駄遣いをせず、まじめにコツコツと働いて貯金し、夫婦で、家族で力を合わせ、いつかもっと大きな夢をかなえる、という未来の希望、日本人らしい堅実な生き方の美徳、モラリティそのものを、日銀は、この30年にも渡って徹底的に破壊し尽くした。親ガチャと言うように、この国では、もはや世襲で既得権商売を引き継ぐか、さもなければ、youtubeか外貨投資かなにか、うさんくさい方法で一発どかんと大きく当てない限り、奴隷同然の不遇孤独な境遇で老いさらばえていく一生が待っているだけ。
経済バカの日銀は、日本人の堅実な生き方の美徳と希望を破壊した、この倫理的な責任をまったく理解していないのだろうか。それとも、目先の景気刺激策で、老害団塊世代が死ぬまで、せめて自分の任期中だけでも、年金経済がもてばいい、若者はそのための生贄の燃料だ、と開き直っているのか。こんな姑息な日本経済を舵取りのどこに、国家百年の大計があるのか。
解説
2022.08.06
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2023.01.22
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。