近年、日本企業は「製品スペックで勝っても、事業で負ける」というような問題に直面することが多くなりました。情報や知識、技術よりも上位にある事業概念レベルでの創造力に弱さがあることが1つの要因ではないでしょうか。「概念のイノベーションを起こす力」ともいうべき、事業に対する在り方、中核的価値、グランド・コンセプトを打ち立てる思考力が、いま強く求められています。
「アズ・ア・サービス」は事業概念発想の一例にすぎない
「アズ・ア・サービス」モデルが注目されています。「Software as a Service|SaaS」や「Mobility as a Service|MaaS」が代表格です。いま特に製造業においては「Product as a Service」、すなわち「製品をサービスとして売る」という事業モデルに続々と転換を図るところが増えています。消費者の購買意識の向け先がモノの所有から、統合化されたサービスの利用へとシフトしているからです。
ただ、安易にモノをサービス化して売ればいい、サブスクリプション型で課金すればいい、という対応であれば、それは外形的で付け焼刃的です。結論から言えば、事業の再構築にはその内側の奥にある「中核的価値」を見据えることが決定的に重要な作業になります。
本記事では、「アズ・ア・サービス」のもととなる「アズ・ア」モデルによる発想法を解説しながら、いかに内側の「在り方」から事業概念の再構築を図るかを考察していきます。実はSaaSやMaaSは、この「アズ・ア」モデルによる発想法の答えの1つでしかありません。他にも事業概念を変換する切り口はたくさんあります。ですから、SaaSやMaaSを表面的に真似ても成功はおぼつかないのです。
クルマを売る→クルマを貸す→モビリティを売る
トヨタ自動車の企業ウェブサイト(2022年3月時点)をみると次のような宣言が記してあります───「100年に一度の大変革の時代。トヨタは『モビリティカンパニー』にモデルチェンジしていきます。『未来のモビリティ社会』の実現を目指しながら、これまで以上に『愛車』にこだわり続け、『もっといいクルマ』をお届けしていきます。」
このように自動車メーカーがクルマを売るということから、「モビリティ(移動性・動きやすさ)を売る」ことに移行していく流れが明確になってきました。その流れを概括しておきましょう。
まず自動車で起こっている変化を3業態に分けて描いたのが下図です。第Ⅰ業態は「クルマを売る」形です。お客様はクルマが持つ機能・デザイン、言うなれば「モノ的価値」に魅力を感じて買います。クルマの所有権はお客様にあり、当然メンテナンスもお客様が費用を負担してやります。そしてクルマの耐用年数が過ぎてくれば、再度、新しいクルマに買い換えることになります。
次に第Ⅱ業態の「クルマを貸す」という形があります。いわゆるリース・レンタルという利用契約です。モノとしてのクルマを所有する欲求がさほど強くない、あるいは、所有するだけの財力がないといったお客様に対し、手軽な価格で一定期間あるいは一時的にクルマを使える権利を売るというものです。
次のページ売るものは「製品」ではなく「製品の中核にある価値」である
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2015.07.10
2009.02.10
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。