現在、劇場での映画鑑賞の料金体系は若者に著しく冷淡なものになっている。将来の顧客を育成する視点を欠いたこうしたやり方は、自らの首を絞めることになる恐れが高い。昔はマーケティング巧者だったはずの業界なのにどうしたことか。甚だ残念だ。
コロナ禍が一時的に下火になっていたこの年末年始、久し振りに劇場の大スクリーンで映画を観た人も少なくないのではないか。普段なかなか行けない人にとってはゆったりと時間を過ごす、いいエンタメだと思う。
とはいえ一般料金だと1,900円、夫婦で子供を2人連れていけば5,800円になってしまう(子供料金は1000円というところが多いようだ。中高生も同じ)。これならファミレスで食事したほうがいいと考える若い夫婦も多かろうと思う。もちろん、独り者でも1,900円というのは決して安くはない。
しかし問題はこの値段の絶対額ではなく、むしろ相対値なのだ。若者世代が自分たち向けの料金を割高だと感じてしまうのだ。どういうことか。
シニア(60歳以上)料金だと1,200円というのが普通だ。実は大学生(割引価格で1,500円)よりもシニアのほうが優遇されているのだ。一般料金の1,900円と比べるとさらに大きな差になっているのが分かるだろう。
もちろんシニア世代のほうがお金だけでなく時間も余っている人が多いから、直近のターゲット客として注目・期待するのは分かる。しかし世の中的に言えばシニア世代のほうがお金持ちだというのは今どき常識だ。この料金体系はおかしくはないだろうか。小生自身は(映画業界のこの基準では)シニア世代に属する身だが、やはりおかしいと思う。
シニア世代は今や日本社会のボリュームゾーンである。実際、映画館で見かける主たる顧客層だ。彼らに対する「シニア料金」が今やスタンダードなのだと、若者が感じても全然おかしくはない。まだ稼ぎの大してよくない若者にとって、自分たちに適用される「一般料金」とは「割増料金」に他ならないのだ。
こうした料金体系を見せられている若者は映画業界に対しどう思うだろうか。少なくとも「自分たちは歓迎されていない」とは感じるだろう。ただでさえスマホで動画を観るのに慣れている彼らは、ネットフリックスやAmazon Prime Videoなどを観ればいいやと考え、割高な(と彼らが感じる)料金を払ってまで劇場に足を運ぶ気には中々ならないだろう。この状況が続けば映画業界の首をじわりじわりと絞めつけていく。
何とか今のうちに若者世代に劇場で映画を観る習慣を根付けておかないと、将来の顧客層はどんどん先細りしてしまうことは火を見るより明らかだ。
こんなことはマーケティング巧者だった昔の映画業界人だったら分かっていて当然のはずだ。今の映画関係業界人はよほど短期的な収益にしか興味がないのか、それとも若者の気持ちには無関心なのだろうか。コロナ過で客足が格段に落ちたこの業界の先行きが思いやられるし、甚だ残念だ。
マーケティング
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
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