前回は、サイコグラフィックなセグメンテーションをしても、映画を見に行くという行動伝播は異なるセグメントには起こらないということを書いた。すると、セグメントごとに別の接触チャネルを持たないと集客できないということになる。
つまり大ヒットのほとんどは、大規模プロモーションによるものであった。しかし、映画のような商材には、マルチウィンドウ展開が必須である。
(展開チャネルのことをウィンドウということがあります。わかりやすいのは、コミック原作のものを映画化したり、テレビ化するとき、映画やテレビをウィンドウと言ったりします。)
キャラクターグッズの展開であったり、サウンドトラックであったり、そういったものは利益率が非常に高い。リクープ後の利益の上乗せを作るのに非常に重要なポイントだ。
(商品化権はどこかのライセンシーに許諾したりしますが、許諾後の広がりのイメージを持つのもプロデューサーの仕事です)
その時、映画という商材の特徴でもあるのだが、視覚優位の軸と、聴覚優位の軸をベースにコアターゲットを設定して広げるイメージをするプロデューサーがいる。
その際に、彼は学校の教室をイメージするそうだ。
これは非常に強力なフレームワークである。
なぜか?
サイコグラフィックな好みの分かれた人間が一同に会して、しかも誰でもイメージできる場所だからである。
皆さんもイメージして欲しいが、教室の前のほうには、どちらかというと、優等生的な生徒がいて、後ろのほうにはやや不良な人間がいたりする。
そして、教室の廊下側には、やや暗い人、オタクな人がいたのではないか?差別するわけではないが、漫画研究会の人は、けっこう廊下側のほうにいたのでは?
更に、校庭側、窓側には運動が好きな人間、明るい人間がいたのではないか?外を見て、ボーっとしているタイプもいたのではないか?
このようにイメージすると、教室を9分割ぐらいにできる。
そして、映画のコンセプトで、9分割のどこの人間をコアターゲットとするのか?を決める。
その上で、どうもサントラなどの聴覚的なものの好みは、前のほう、後ろのほうという、前後の軸に相関が強いのではないか?と考えられる。
そして、キャラクターグッズなどの視覚的なものの好みは、窓側、廊下側など左右の軸に相関が強いのではないか?
コアを中心に、商材ごとに前後、左右の軸に流す、教室全体に広げていくというイメージをするのだ。
いわゆるマルチウィンドウ展開をするコンテンツでは、展開を考えるプロデューサーはどうしても広げていく軸を考えざるを得ない。ウィンドウごとに支持層を広げていけない商材では、ヒットし得ないからである。
コンテンツビジネスのように広げる必要性があるビジネスに関わる人は非常に少ない、そもそも強いコンセプトの商品を作る壁を突破できない、などの理由で、市場細分化以外の知見は、ターゲティングでは、あまり普及してこなかったと思う。
しかし、サイコグラフィックな好みといったものをターゲティングの際の中心におく必要性は、経験経済的な考え方の普及以降、強まっていると思う。そして、コアターゲットを中心として広げていくという発想も、ビジネスを広げていく際には、非常に重要である。
ニッチマーケティングばかりが優位に語られる中で、もうニッチでは勝てるようになってきた、と思う経営者は、コアを中心にターゲットを広げていくという考え方を導入してはいかがだろうか?
ターゲティング
THOUGHT&INSIGHT株式会社 代表取締役
THOUGHT&INSIGHT株式会社、代表取締役。認定エグゼクティブコーチ。東京大学文学部卒。コンサルティング会社、専門商社、大学教員などを経て現職。