文化放送「The News Masters TOKYO」のマスターズインタビュー。 パーソナリティのタケ小山が今回訪ねたのは、米アップル社の新社屋に数千脚という単位で椅子を納入したことで世界から熱い注目を浴びた広島の家具メーカー・マルニ木工社長の山中武さん。 老舗の創業家の後継者として生まれ、子ども時代からずっと親に反抗していたという山中さんが家業を継いで世界的ヒット作となる椅子シリーズ『HIROSHIMA』を生み出すまでの紆余曲折のストーリーを追いかけてみたい。
「メーカーとして生き残る」という決意
戻ったときのマルニの置かれた状況に愕然とした。
当時、国内の家具業界では高級家具の専門店は次々に倒産し、価格の安い量販店がマーケットを席巻していた。百貨店などの主要な取引先も縮小の一途をたどり、売り上げはダウンに次ぐダウン。非常に厳しい状況だった。
「いったいどこから手をつけたんですか?」とタケ。その質問に、山中さんは少し笑いながらこう答えた。「まだ、父親に対して反発していた時期なので僕自身は会社に対してとってもクールだったんです。とにかく儲ければいいんだろう、そう思っていました」
最初の3年間は、生き残るためにリストラクチャリングを断行した。工場は統廃合、不動産は売却。その対象は職人さんにも及んだ。「現場を知らない、いやな奴が来たぞと思われていたと思います。数字でしか判断しないひどい奴が来たって」。
ただ、マルニの技術のコアの部分を担う職人や工場は、縮小はするものの「残していこう」と思っていたという。ものづくりの本質に対して、創業家のDNAから来る勘が働いたのかもしれない。
「ただね」と、山中さんは続ける。「3年くらいリストラクチャリングをやっていく中で、だんだんほだされて、木が好きになって、ものづくりが好きになっていったんです」。どんな苦労があったとしても、「ものをつくるというのは楽しいことだ」と改めて実感した。
その頃、社内ではこんな議論が行われていたという。「マルニはメーカーで生き残りますか、それとも商社で生き残りますか」。
父親や叔父はインテリアの総合サプライヤーとして商社的なポジションを探っていた。だが、山中さんはこう考えた。「うちの最大の強みはものづくりだ」。バブル崩壊後にも唯一評価され続けたのは、自社工場で職人が作っている家具だったからだ。
「メーカーとして生き残る」そう決心したことで、2004年には社名もマルニからマルニ木工に戻した。
「その後、少しずつ会社が変わり始めました」。
「たった2ミリ」をあきらめない感性がデザイナーと職人を結んだ
「メーカーとして生き残ることを決めたことが功を奏して、2017年にアメリカのアップル社の新社屋に納入されたマルニ木工の椅子『HIROSHIMA』を生み出したんですね」と、この大快挙にまつわる話に興味津々のタケ。
「どんなふうに『HIROSHIMA』は誕生したんですか?」
その誕生の立役者はプロダクトデザイナーの深澤直人さんだ。
会社を変えよう、企業文化を変えようといろんな試行錯誤をしてはみたが、何をやってもうまくいかなかった模索の時期に出会った一人が深澤さんだ。「メーカーとして生きていくには小手先をいじっても仕方がない。デザインが変わらないと会社は変わらない」と思った山中さんは、いろんな人に会いに行った。
自分は経済畑の人間で、デザインも建築も勉強していない。「とにかく国内外の著名なデザイナーに会ってみようと思ったんです」。
その中で、深澤さんのことが非常に強く印象に残った。「この人としっかりひざを突き合わせてものづくりをやれば、素晴らしいものが作れるんじゃないか」。とはいえ、深澤さんは当時すでにプロダクトデザイナーの大家だった。そんなことが可能なのか?
「いったいどうやって説得したんですか?」と、タケも気になる様子。山中さんは、その提案をする際に財務諸表を持っていったという。「こんなに大赤字です。お金もないし、残された時間もない」。そう正直に打ち明けたうえで力強くこう言った。
「でも、技術と想いだけはあります」
「で、どうなりました?」と、タケ。
「実は、意外とあっさり『うん』って言ってくれたんです」という答えにタケも小さくガッツポーズ。
実は、深澤さんの快諾にはちゃんとした理由があった。
「以前の活動でご一緒した時に、深澤さんから『この脚、あと2ミリ細くならないか』と言われたことがあって、うちの職人は『こんな無茶なこと言われたよ』と言いながら実に嬉しそうで、実際にそれに応える技術も持っていたんです。ものづくりに対する価値観、細部のこだわりを理解できる感性、そして技術力。それらがマルニ木工にあることが深澤さんの心をつかんだようです」
次のページついに『HIROSHIMA』誕生
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