雑誌の編集長でありながら、本格的にお米作りをしたり、古民家を改装した宿を経営したりと、数々のトレンドを生み出してきたクリエイティブ・ディレクターの岩佐十良(いわさ・とおる)さんがデザインする豊かな暮らしとは?
お米ひと粒がメディア
「東京から新潟へ移住、会社も移転。きっかけはなんだったんですか?」
岩佐さんの会社は2002年からお米の販売を始めました。
「雑誌でこのお米が美味しい、この味噌は凄いと言っても伝わらない。食べてもらったほうが早い。雑誌の誌面よりも米ひと粒が持っている力のほうが強いんです。お米を販売することがメディアだと考えていました」
出す情報には責任を持たなければいけないという岩佐さんの信念は、意外にもお米作りに向けられた。
日本一のブランド米の産地である新潟・南魚沼に移住したのは2004年のこと。本格的なお米作りをはじめたことで生活が激変したと岩佐さんはいう。
「収入面は?」と、気になるところをズバリ伺うと、3分の1にまで減ってしまったとのこと。
「新潟に居て、広告の営業ができなくなったのが大きな原因で、雑誌の発行部数が減ったわけではないんです。でもおもしろいことに可処分所得は増えたんです」
新潟での暮らしは、手取り収入と自分の時間が増えたことが新鮮な発見でもありました。
「東京に居ると、明け方頃まで仕事をして倒れ込むように仮眠をとったら、また仕事という日課で、そんなに時間が無いのに農業など出来るわけないと思われていたんですが、新潟に移住したら時間ができちゃったんですね」
タレントさんのキャラバン、カメラマンさん、ライターさんの売り込み、新商品の売り込み等、打ち合わせ時間がなくなった途端に「なんだよ、時間あるじゃん」と。そして住宅費は東京と比べて5分の1以下に。交遊費や食費もほとんどかからなくなった上に、食生活も豊かになったという。
「リラックスしたければすぐそこに温泉もある。ハイビジョンよりも美しい景色の移り変わりが目の前に365日ひろがっているんです」と、新潟への移住で豊かさの考え方が変わったようだ。
フェース to フェースのコミュニケーション
「こんな美味しいお米は食べたことがないとお便りを頂くのですが、その人達がいったいどんな顔をして食べていたのかわからないですし、本当はこちらの水で炊けばもっと美味しくなるということも知って欲しかった」
"美味しいお米を作って届けるその先に、食べている人の顔がみたい"という思いに駆られた岩佐さんは、2014年新潟県南魚沼市に『里山十帖』という宿泊施設を開業しました。
「今まで宿泊施設というのは泊まることがメインでした。ウチはメディアとしての宿なので、体感、体験してもらうことがコンセプトなんです」
そして昨年の8月「箱根本箱」をオープン。
「昔は駅前の本屋というのはとても重要な役割を担っていたと思うんです。待ち合わせや空き時間にふらっと入って立ち読みをする。そこで本との新しい出会いがあったりするんです。その新しい知識との出会いをホテルに来てもらって体験するというのが"箱根本箱"のコンセプトなんです」
さらに今年、長野県松本市に『松本屋』という『箱根本箱』を進化させた形態のホテルをオープンさせる予定。
「松本の本屋で松本屋。松本市は"楽都""学都""岳都"の3ガク都と呼ばれている街です。今回の"松本屋"に関しては本と教育をテーマにしています」
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